Buddy(1)【ルドレノ】

ルドレノ

インフォメーション

■SERIOUS●MEDIUM

レノのメールはルードにとって大きな物を意味していた。

Buddy:ルード×レノ

 

「っちい…」

何だか熱い気がして、体に覆い被さっていた毛布を足でザクッと払い去る。

そうして毛布が完全に体から剥がれると、少しは寝苦しさが緩和されたのか、レノは引き続き寝に入ろうとした。

が。

ジリリリリリ…!

「っせえ…!」

―――――途端に枕元の目覚まし時計がけたたましく鳴ったりする。

正にウザイの一言に尽きる。

仰向けに寝たままで右腕をガッと頭上にやったレノは、そのまま手探りで時計を見付け出すと、派手にガンと目覚ましスイッチをオフにした。これでOK、平和に寝れる。

……と思ったが。

隣でガサゴソやられ始めるとさすがにそうもいかなくなるわけで、結局レノは一時的に目を開くことになった。非常に不本意だが仕方ない。

「何だ、もう仕事か?」

「ああ」

一つベットの中はあまりにも狭苦しかったが、ともかく隣で寝ていたルードがそんなふうに起き上がって、少しばかりスペースが広がる。

ただそれは、ちょっとばかり熱が放出される感じがして、先程とは正反対にうすら寒い感覚をレノに与えた。

「ちょっと早いんじゃないか?まだ余裕あるじゃん」

目を瞑ったまま時計を止めたわりにそんなことを言ったレノは、まあおおよそこのくらいだろうという時間を口にする。それはピタリと合っていたが、ルードは意に介さず、支度をするから、などと言った。

それから、まだベットの中でうつらうつらしているレノに向かって言う。

「そういえばお前も出かけるとか言ってなかったか?」

「あーそうそう、でも今は無理。眠すぎ」

「…そうか、まあオフなんだ。寝てろ」

「了ー解」

そう言ったきりレノはまたうつらうつらと眠り始める。

それは深い眠りというわけではなく、どちらかというと半分寝ているという状態だった。だから半分は起きている。

そんなレノがもう一度ルードに話し掛けたとき、既にルードは出かけた後のようで返事が無かった。

「何だ、もう出たのか。早いったら……」

ふう、と息をついてそう漏らしたレノは、眠たげな欠伸をすると、再度寝に入ることにした。

「…こりゃ精子不足だな……」

そんなことを呟きながら。

 

 

 

眠ること数時間。起床したのは午後二時の事だった。

出かけるつもりがこの時間とくれば、また何ともいえず微妙である。出かけられないわけではないが、出かけるにしてはちと遅い気もする。

「……寝すぎか」

レノはむくりと立ち上がると、昨日から何も変化無い……というより昨日より最悪になった髪をくしゃくしゃとやった。

「一人で裸ってのもな……」

何となく体に目を遣ると、そこには全裸の自分がいる。いくら誰もいないとはいえ風邪をひかないとも限らないし、さすがに何かしらは着込もうか、などと思う。

レノは取り敢えずズボンを穿くと、上半身には軽くシャツを羽織った。ボタンをはめるのは面倒だから、正に着流しの状態だ。

そこまで終えると、昨日脱ぎ捨てたまま放置していた服を床から拾い上げ、バスルームへと足を運ぶ。

バスルーム脇には、洗濯機が置いてある。
悲しい男の一人暮らしとしてはかなり活用される機械だが、何故だかこの洗濯機を回すのはいつもレノの役目だった。

即ち……

「ったく!回せよな、少しはって!」

ルードは家事をサボっているらしい。しかしまあ、それも分からないでもない。

何故って、その洗濯機の中身の殆どはレノの物である。

ちなみに、この家の主はレノではない。ここはルードの自宅である。だからその洗濯機をレノの衣類が占領していることも、ルードが洗濯機を回さないことも、本来ではおかしなことだった。

しかし、いつのまにかこんな風景も普通になった。それは別段、一緒に住んでいるとか、そういうことではない。昔ある出来事が起こってから、こういうふうにルード宅に出入りするようになったのだ。

「はいはい、スタート、っと」

レノは洗濯機の開始ボタンを押した。スイッチ一個でラクラク洗濯、まあこんな調子ならばそれほど文句は無い。

そうしてバスルームから離れると、五分ほどが経過していた。
本来出かけるはずだったレノは時計をチラと見遣った後、少し考えて、思い出したように暗いキッチンへと向かう。

そこで手際よくホットドックを作ると、それをかじりながらベット脇へと戻った。そして、丁度ベットを背もたれにするように床に胡坐をかく。

―――で。

「さて…やりますか」

そう呟いたレノが起こした行動といえば、まずはベットの下に手を伸ばすこと。

伸ばした手が視界に戻ってきたとき、そこにはノートパソコンがあり、レノはそれを見るなりアダプタをさっとコンセントを差し込んだ。

そうして電源をオンにすると、ウィーンと起動し始めたそいつを胡坐の上にセットする。で、ホットドックをまた一かじり。

「頼むぞ」

 

 

 

ピロン、そう音がしてツォンはパソコンの方を振り返った。どうやらメールが来たらしく、お知らせ機能がそれを伝えてくれたらしい。

ふと時計を見ると午後五時で、何かしらの連絡が来るには少し遅いといった具合の時間である。

「何だ?」

ツォンがそう思ってメールをチェックすると、そこにはどうやら見覚えのある名前があった。

「おい、ルード」

画面から目を離し隣にいたルードに話し掛けたツォンは、これを見ろ、というジェスチャーをする。それだからルードは眉を顰めつつもそれを覗き込んだのだが、そうした瞬間、思わず咳き込んでしまった。

何しろそこに見えたのは…。

「……だそうだ」

「……」

「で、今夜の夕飯は?」

「…ツォンさん、勘弁してくれ」

そんな会話が発生したのは、勿論そのメールのせいである。

そのメールに何が書いてあったかといえば―――まさに夕飯のこと。

 

【相棒へ

今日の夕飯どーする?俺の希望はピザ。かちかちクラスト生地で電流みたいにビリッて効く高めのやつな。スパイスたっぷり、でもってデカイスパイスも一つ、注文は19:00な。どう??】

 

――――――意味不明である。

ツォンは苦笑してルードを見遣ると、おかしな相棒をもったな、と慰めにもならない言葉を放った。それはいかにも茶化した様子で、ルードは思わずムッとしてしまう。

別に好きで相棒をやってるわけじゃない。
むしろレノの方が勝手にそう認識しているだけだ。

そう言おうとしたが、ツォンの口から思わぬ言葉が聞こえてルードは閉口してしまった。

「まあ良かったじゃないか。あいつが相棒で」

「…何でそんなことを」

そう聞いたルードに、ツォンは少しだけ笑った。

 

 

 

退勤後、ルードはマーケットで一リットルのミネラルウォーターを購入した。誰かさんが今夜の夕飯はピザが良いだとか言うから、用意周到にもそんなものを買い込んだのだ。

あの相棒は、ピザなんていう油っこいものを食べる時には必ずミネラルウォーターを要求する。いつも酒を水変わりにしているくせに、そんな時ばかり健康マニアよろしくそんなものを要求するから、ルードは渋々ミネラルウォーターを購入した次第である。

一リットルのミネラルウォーターを手にし、家路につく。
距離はさして遠くない。

そのあいだ、ルードはあの相棒のことを少し考えていた。

結構長いつきあいだとは思う。仲は良いほうだと思う。……しかも、一線を越えてしまったとも―――思っている。

いくらなんでもやりすぎだ、そう思っているはずなのに、俄然ズルズルとやりすぎな関係を続けているのは何故だろうか?

そう思い、ルードは手にもったミネラルウォーターをチラと見遣った。

そもそもこのミネラルウォーターこそおかしい。

何故あいつのために用意周到にもそんなものを買い込んでいるのか?
しかも何で夕飯まで一緒に食べねばならないのか?

これがもし外食や飲みの後ならまだしも、レノは今日はオフなのだ。なにも夜までルードの自宅にいる必要はない。

それが何故だか当然のように居座り、挙げ句の果てには洗濯機まで勝手に回す始末……まったくおかしいとしか言いようがない。

それでもそんな訳の分からない相棒関係を続けていること自体が、多分一番訳の分からないことなのだろう。

そんなことを考え込んでいたルードは、ふと耳に流れ込んできた音に足を止めた。

「?」

……ガガガガガ……

キレの悪い音が聞こえる。

その後、くぐもったような低い声。

……現在ミッドガルでは治安維持活動として―――……

「……放送か」

音の方を見遣ると、そこにはテレビがあった。どうやら何かの店が、店先にテレビを設置しているらしい。

そのテレビから流れてくるのは、紛れもなく神羅の放送である。

神羅の放送は治安維持活動についてを切々と語っており、それはいかにも神羅が素晴らしいと述べているようだった。

――――御託ばかり並べて。

そう心の中で舌打ちしたルードは、一瞬その放送に歩を止めたものの、すぐにその場を離れようとする。

が、何故だかそういうわけにはいかなくなってしまった。

というのも、そこにたまたま男が通りかかり、気になる言葉を吐いたのだ。

それは社会批判の言葉だった。
しかし社会とは今や神羅そのもの…つまりそれは神羅批判である。

男は漏らしたのだ、テレビから流れる真面目極まりないアナウンサーの言葉に。

「はん、なにが治安維持だ。腐ったピザでしかないくせによ」

ああ、そういえば―――――

そんな言葉で表現されることもあったか、このミットガルは。

一瞬のうちに思ったのはそんな事で、よくもまあそんな表現を思いついたものだと感心する。しかし次の瞬間には、誰かさんの書いてきた文字が脳裏をかすめた。

それは確か…今夜の夕食で。

「ピザ…?」

そう呟くと同時に、はっ、とする。

あいつは、何て書いてきた?
あんなメールを、何であいつはわざわざ送ってきた?

あれは―――――…。

「…っ」

ルードは舌打ちすると、途端に走り出した。
時計を見やると、時間はどうやら六時五十分であるらしい。

「注文は……七時、か」

そう呟き、もう一度舌打ちする。

まったく―――とんだ相棒を持ったもんだ。

そう思いつつもスピードをゆるめず走り続け、ある場所へと向かう。荷物になったミネラルウォーターを揺らしながら。

 

 

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