「なあ、ルード。お前だったらどう思う?仲間がさ、みすみす殺されるってどう思う?」
「どうって…」
ルードは黙り込んだ。
黙り込んで、暫くウイスキーを飲んでた。
そうだよな、答えにくい質問だよな。知ってるよ。分かってる。でも聞いてみたかったんだよ、お前に。俺はこうしてこの案件に手出すことに決めたけど、お前だったらどうするかなってさ。
悪いコトやってきた俺は、この案件に手出すことに決めた。
悪いコトやってきたお前は、どうする?
「…レノ」
暫くして、ルードが静かに俺の名前を呼んだ。
それで、俺に向かって大打撃を与える。
まあ少しくらいは想定してたコトだけど、そうハッキリ言われるとさすがに答えに詰まるワケで。
「お前はまさか…俺達を裏切ろうとしてるわけじゃないだろうな?」
裏切る。
そりゃ重い言葉だ。
でもさ、裏切るって、一体何に?どこから見て、どこを見て、そう言うんだ?
そんなの、決められるワケないだろ。
「何でお前一人でこの案件を抱えようとした?それはお前しか分からないように、何かを企んでるからじゃないだろうな?」
「ははは!」
俺は笑ってやった。
スルーするためにそうしたのに、ハゲは一向に笑わない。ムカツク。ムカツクからさ、じゃあ聞いてやるよ。最高の質問。
「…じゃあさ。もしそうだったとしたら、どうする?」
カラン、とウイスキーん中の氷を揺らして決め台詞。どうだ、ハゲ。答えてみろよ。
「どうするも何も、お前を止めるまでだ」
「へえ。俺を止める?犯罪まがいのコトするかもよ?」
「―――だったら、消す」
「……」
なあ、ルード。
お前はさ、本当に良い相棒だって思うよ。
お前の言葉にはきっと嘘とか無いんだろーな。
だってお前は、悪いコトしてきててもちゃんとルールのあるトコで生きてきたんだ。俺はさ、ノンルールだから嘘なんて幾らでも言えるんだ。
俺は、ちょっと感動してた。
俺がもしオカシクなったら、ルードは俺を消してくれる。
そんなことしてくれるヤツ、きっとこの世のどこにもいないって思う。
「…バーカ、嘘だよ。そんなんするワケないし」
俺はウイスキーをくいっとやると、笑ってそう言った。
「俺の仲間だったから、せめて俺の手でどーにかしてやんなきゃって思っただけ。消されるの知ってて、他のヤツが手下すの見てるよか自分ですっぱりやった方がまだ良いだろ。何となくさ、そう思ったワケ」
「……」
「ま、そーいうワケだから」
俺はそこで説明を終えると、とにかくウイスキーを流し込んだ。ひたすらひたすら。ガブガブガブガブ。
不思議とルードへのイライラは無くなってたから、この空間も大して辛くない。けど、この案件についてはこれ以上触れたくなかった。
ルードは、俺の隣で俺のことを見てる。
視線で何となく俺は気付いてた。
それが何か言いたそうで、でも俺は聞きたくなくて、だからガブガブエンドレス。そのうち脳も麻痺して上手い具合にヘベレケ完成。
これで良い。
こーしたら、もう何を聞かれても答えられないし。
「おい、レノ。しっかりしろ」
「あ~???」
真昼間の喫茶店で酔いつぶれてるってどーなんだろうな。
でもそんなの知ったことじゃないし。別にどーでも良いし。
「全く…なんていう奴だ」
意識的に泥酔した俺の耳には、ルードの溜息が響いてた。
酔った後の記憶は見事にデリートされてた。
とりあえずルードが俺を運んでくれたらしいってことだけは分かる。朝起きたらちゃんと自分のベットに寝てたから。
今までの人生二日酔いなんてろくになったこと無いのに、その日は起き抜けから頭がガンガンしてた。取り敢えずは薬を飲んでいざ出陣。
昨日、酔う前にあらかじめ決めておいた待ち合わせ場所に行くと、そこには既にルードが立ってた。しかも今日は黒スーツじゃない。レアもの私服だ。
とはいえ、俺も今日は私服だった。
なるべく昔の俺を意識して、一番だらんとしたカッコをしてきたつもり。ほら、何ていったって今日は乗り込む日だから。しゃんとしたカッコじゃむしろ怪しまれるだけだ。
胸が半分くらい開いたシャツに、ところどころ切れたズボン。勿論アクセはじゃらじゃら付けてきたし香水もプンプンさせてきた。
いつもは控えめにしてるピアスも今日は全員出勤で10個くらい付けてる。ベルトのバックルもイカついのにしてきたし。こりゃ完璧だろ。
そんな俺と比べてルードは簡素だった。
黒スーツ姿がそもそも怖いから、それに比べたら怖さDOWNって感じ。
それでもまあまあ意識してんのか、変な柄シャツに良くわかんない丈のダボダボズボンを履いてた。首にはゴツいゴールドネックレスなんかつけてる。似合いすぎて怖いっつーの。
思わず俺が大爆笑すると、ルードは少しイジケた。こんなカッコしたのは久々だ、なんて言い訳しながら。
そんなこんなでレアなカッコに変身した俺達は、そのまま目的の場所まで向かってった。
勿論、ターゲットになってる組織のトコだ。そんでもって、かつての俺の仲間の場所でもあるトコ。
そこに行く途中、俺はルードにある程度の説明をしなきゃならなかった。ま、基礎知識だな。
何しろ俺は数年ぶりに仲間の元に戻るんだ。その時のリアクションに備えて、ある程度辻褄を合わせとかなきゃイケナイ。
その1.レノ様は最強だった。
その2.最強になったのはある事件がキッカケ。
その3.その事件では人が死んでる。
その4.レノ様はある日ふと姿を消した。
その5.姿を消した理由や、行き先は全て不明。
その6.組織の名前はいつしか“X”と呼ばれるようになってた。
その7.レノ様にはX内に相棒がいた。
俺がそれを説明すると、ルードはやたらと事件についてを聞きたがった。だけど俺はそこについてはスルーしとく。別にそんな詳細なんて知らなくても良い。
問題は、俺が最強だってトコと、突然いなくなったってトコだけ。
再会したら、あいつらは多分俺を上に見てくる。そんでもって、どこに行ってたんだとかどうしていなくなったんだとか、そーいうコトを言ってくるに決まってる。
基礎知識もなくてそんなの目の当たりにしたらワケわかんないだろーから、だから言っただけ。後は基本的に知らなくて良い。ってか、あんまり知って欲しくない。
そー言うワケだからヨロシク。
俺がそう言うと、ルードは納得いかないような顔して頷いた。よし、これでOK。
そんなわけで基礎知識編は終了。
で、こっからは完全攻略編。
俺とルードはひたすらスラムを歩いてった。
治安の悪さは未だに変わらないスラム。だからこそココにはあいつらの居場所がある。俺はそれを分かってるけど、俺はそれを潰しにいく。
何だよな、この矛盾。ホント、馬鹿みたいだろ。
何で神羅がこんな任務を始めたか、その理由は詳しく聞かされてない。だから俺は、本当の理由なんて知らないけど、大体のところは察しがついてた。
そもそもこの案件は治安維持部門のだったし、治安維持部門っていったらその名のとーり治安維持が仕事だ。
で、街のごろつきは治安を悪くしてる。だからそれを排除しなきゃってワケだ。
だけどさ、沢山いるゴロツキん中でその組織だけがターゲットになるってのはおかしい話だろ。
まあこれから徐々に掃除しますってことかもしれないけど、俺の予想、ゴロツキん中でもXはヤバイ組織だからそーいうことになったんだと思う。多分だけど。
それに加えて、神羅はスラム改革を進めようとしてるって噂があるんだ。それも関係あるのかも。
ひたすらスラム。
ひたすらスラムの奥。
で、ひっそり建ってる廃屋。
ホラ見えた、あれがあの組織のゴロツキ場だ。
この辺りにはあんまり人は来ない。ゴロツキが根城にしてるとかいって、治安が悪すぎて人が寄り付かないワケだ。
それが返ってラッキー。だって何したってバレやしない。ここに一つの悪循環。世の中はさ、悪循環するよーにできてる。上手い具合にな。
「よっし、行くぞ」
俺が合図をすると、ルードは軽く頷いた。
―――――さあ、作戦開始。