やがて俺は、兵士仲間のあいだでは言葉を発さなくなった。
何か言われても何も答えない。せいぜい「うん」と「ああ」くらいで済ませて、肝心なことはいつも自分の心に仕舞った。
何か言ってしまえば、またいつかみたいに馬鹿を見るんだ。言葉尻をとらえて集まる虫がいるから、俺は口なんか絶対に開くもんかって思う。
訓練が終わってからは、大体俺は幸せだった。
セフィロスと一緒に寄り添って、一緒に話して、御飯を食べて、TVを見て…それから一緒のベットで眠って。
俺はその頃になるとセフィロスに嫌な話をぶちまけたりしなくなっていた。何故って嫌なことは認めてないから、俺の中に嫌なことは存在しないことになってたんだ。
だから特別話すこともなくなってたわけで。
「最近は嫌なことはないのか」
そうセフィロスに聞かれて俺は、
「うん、全然。幸せだよ」
そう自信満々に答えた。それを見てセフィロスは微笑んでくれた。俺はそれだけで満足。
その笑顔を見て、その笑顔の中にいれたら、それだけで満たされた。
どこにもいかないで欲しい。
側にいて欲しい。
セフィロスがいれば俺はいつでも幸せだったから。
それでも、俺とセフィロスの生活には色々な障害があった。
特にそれはセフィロスの任務だったりするわけで、その時間の差はなかなか埋めることができなかった。
俺は、今までの間セフィロスと顔を合わせない日というのが無かったけれど、そういう日がとうとう来ることになったんだ。
それはあるミッションが三日がかりだったとき。
任務先にはザックスも同行するって話だったけど、俺はそれで尚更寂しい気分になった。
この広い家で俺一人が三日も過ごすことは、寂しい以外の何でもない。
この家でセフィロスと一緒にいられないということは、俺にとって幸せを剥奪されたも同然のことで、やっぱりそんなのは耐えられなかった。
できればそんなミッション、いかないで欲しい。
大体ソルジャーなんてセフィロス以外にもいるんだ。その人達が行けば良い。
そう思ったけれど、セフィロスが責任者だから駄目だと言われて、俺は仕方なくその三日間を独りで過ごすことにした。
その三日間、俺は死んだみたいだった。
幸せは無かった。
嫌な事は認めないはずだったのに、訓練が終わるとどっと疲れて考え込んで、セフィロスの家だっていうのに俺は落ち込んで気分が悪くなった。
此処がセフィロスの家であっても、セフィロスがいなくちゃ幸せじゃない。
苦しい。辛い。
俺の幸せの定義は一気に反転して、
【嫌なこと:幸せなこと=100:0】
になった。
最早( )だって付いてない。
全てが全て嫌なことでしかない。渦巻いてる。
前と同じような普通の訓練さえ俺は嫌になっていた。どうせ家に帰っても幸せな気分になれないのに、頑張りたくもない。そんなことをしたらただ疲れるだけだ。
だから俺は訓練を頑張ることもしなかったし、ただただ嫌な三日間を過ごすだけだった。
早く帰ってきて欲しい。
セフィロスがいないと駄目だ。
幸せなんて俺には無い。セフィロスだけが俺の幸せなんだ。
早く、早く、早く、帰ってきて欲しい。
俺のセフィロス、お願いだから。
ただただ、その三日間はそれだけを願って過ごしてた。
三日過ぎてセフィロスが帰ってきた日、俺は一気にセフィロスに嫌だったことをぶちまけた。俺の幸せ定義は反転しきったままだったから、嫌なことなんてマックスに語れる。
丁度ミッション帰りで寄ってくれたザックスも、一緒にその話を聞いてくれた。
俺はそうしているうちに段々と落ち着いてきたけれど、落ち着いた拍子に何だか涙が出てきてしまった。
セフィロスがいないと辛いよ、幸せなんかじゃないよ。
死んでしまうよ。
そう泣きながら訴えた。
そんな俺をセフィロスは黙って抱きしめてくれて、
「ずっと側にいるから安心しろ」
と言ってくれた。
ザックスもとても優しい言葉をかけてくれたりする。セフィロスには及ばないけど俺で良ければいつでも力になるぜ、なんて言ってくれる。
俺はそんな言葉を沢山沢山もらって、すごく幸せだなあって感じた。だからその瞬間に俺の幸せの定義はまたまた逆転したんだ。
やっぱり嫌なことは(0)で、幸せなことは(100)になって。
俺はセフィロスが帰ってきたっていうのに自分の話ばっかりして、泣いた疲れでつい寝入ってしまった。
多分その後セフィロスとザックスは少し話していたんだと思うけど、俺にはその話は聞こえなかった。すっかり寝入ってしまった後だったから。
セフィロスのいる家は幸せだった。
隣で一緒に寝ていなくても、それだけで幸せな気分になれた。
………なあ。クラウドの奴、上手くやってないっぽいな。
………ああ、どうも関係が悪いようだな。
………大丈夫か?あの調子だとアイツ、セフィロスがいないだけで死んじまうぜ?
………危険だというのは分かってるんだ。耐性を持たせなければとは思っているんだが。
………ヤバイだろ、もう…。
………ああ、俺も心配はしてる。だが、アイツの苦しい顔など見たくない。
………そりゃエゴだぜ。セフィロスがそうしたいからってアイツの将来考えたらよ。
………そうだな。だが…俺にもそれはできそうにないんだ。
セフィロスはいつでも側にいてくれた。
いつでも俺の隣にいて笑ってくれて、幸せをくれた。
ずっと側にいて欲しいという俺の願いをセフィロスは叶えてくれた。
俺を裏切ったりしないセフィロスが、俺は大好きだった。
誰かのように間違った解釈もしないし、間違った言葉で俺を傷つけたりもしない。いつでも優しく俺を見ててくれて、俺だけを愛してくれる。
そういうセフィロスを、俺もずっと見続けてる。
大好きだよ、セフィロス。
セフィロスがいないと俺は幸せなんかじゃないよ。
セフィロスとの時間以外は何も楽しく無いし、俺は死んでるも同然だし、そんなものは絶対に認めないんだ。
他のものなんていらない。
他のものなんて消えてしまえばいい。セフィロスだけが俺に幸せをくれる。
セフィロスとの時間が消えてしまうなら俺だって消えてしまう。
嫌なことなんてこの世にはないんだ。だってセフィロスは俺の側から消えることなんてないんだから。
また大幅なミッションがあると告げられた時だって、俺が行かないでと言えばセフィロスはそのミッションを蹴ってくれた。
仕事が長引きそうだと言っても、俺が辛いと言えばすぐに帰ってきてくれた。
いつだってセフィロスは俺を裏切ったりしない。傷つけたりしない。無情に人を傷つける虫なんかとは違うんだ。
絶対的な場所なんだ。
ねえ、他のものなんていらないよ?
消えてしまえば良いんだ。
俺はセフィロスがいてくれれば幸せ。
俺はセフィロスがいてくれれば独りじゃない。
セフィロス、大好きだよ。
ずっと側にいて欲しい。
ずっと側で幸せでいたい。
ずっと俺を見ててね、セフィロス。
俺の幸せの定義が一生【嫌なこと:幸せなこと=(0):(100)】であるように。
ねえ、セフィロス。
ずっとずっとずっとずっと、側にいて下さい。
他のものなんて認めない、要らない、セフィロスだけだから。
ずっと幸せを下さい、俺だけに。
END