セフィロスにも会えなくて、残念ながらザックスも用事があるような日。
そんな日でも寂しさってのは容赦なく襲ってくる。
そういう日は仕方なく独りきりで部屋の中で蹲る。
そうしている間にも寂しさが蔓延していつか窒息してしまうんではないかって思ってしまうんだけど、それでもじっと我慢する。こういう時間っていうのは多分、試練なのかなって思うんだ。
誰も頼る人がいないとき…そういう時は、多分。
だから俺はそういう時、どうして寂しいのかって事を考える。
セフィロスに会えないから?――――それは、YES。
ザックスにも頼れないから?――――それも、YES。
だけどそれ以外は?
そう考えると、いつもアレを入れられる瞬間に思うことがふっと浮かぶ。
あの瞬間に俺が考えるのは、皮膚を知らなければ良かったって事だ。知らなければ俺はこんなふうに寂しいとか思わなかったんだろう。
だってあの瞬間に感じるのは安心感なんだ。って事は俺は、安心感が無いから寂しいってことになる。
じゃあいつも寂しいって思うのは、安心感が無いからじゃないか?
でも、一概にそう言いきるのは恐かった。
俺はセフィロスに安心感を貰ってないわけじゃないし、いくらセックスの時にすごい安心感があるといっても、同じ空間にいるだけでくつろげるっていうのもまた本当の話だ。
だからその寂しさとか安心感っていうのは、日常とちょっとかけ離れた場所に存在してるんだろうと思う。
何が寂しいのか。
何があればいつでも安心できるのか。
皮膚があれば良いんだろうか。
でもそれをいうなら、相手なんて誰でも良いんだ。セフィロスじゃなくてもザックスじゃなくても、誰でもセックスで安心感が得られることになってしまう。だけどそれは違う。
例えば今此処で、自分でアソコを弄ってみたらどうだろう。
でもきっとそれは、普通の男が感じるみたいに単なる気持ちよさしかないって思う。だから行き着くところが結局セックスであっても、多分、核は違う。
どっちかっていうと、皮膚なんだ。
いや―――――それとも皮膚の下、なのかな…。
俺は人を選んで皮膚を求めてる。皮膚の下を求めてる。
通じ合える何かを、いつも求めてるんだ。
俺にとってはそれが、セフィロスやザックスなんだろう。
心を許せる大切な、皮膚の下。
だけどそれは、誰にも理解できないもの。
だってそうだ。
俺がしてることは、世間一般でいうところの“浮気”でしかないんだから。
俺の大切な皮膚の下が消える日はそう遠くなかった。
それは丁度、俺がいつものように寂しいって思っている時で。
セフィロスとは約束していなかったから、会いにいくのは凄く躊躇われて…結局俺の頼りはザックスになった。
だから俺はザックスにいつものように寂しい心を伝えて、巧みにザックスを呼び出した。
ザックスは相も変わらずすぐ飛んできてくれて、それからやっぱりセフィロスとの間に何かあったのかどうかを気にした。
「別に何でもないんだ」
俺がそう言うと、ザックスはやっぱりいつもの反応を返す。最後には呆れたふうに分かったというのがパターンで、それは今日も変わらない。
でもね、辛い。
そう言って早急に誘いをかける。これは別に嫌らしいことじゃない。ただ本当にそう思ったからそうしたまでの話だから。
そしてザックスは俺の唇を奪い、いつも通りのセックスを始める。
―――――でも、今日は何だか違ってた。
俺がそれに気付いたのは、ザックスの手がどこかぎこちない愛撫をした時だった。
いつもなら俺の感じるところをせめてくるのに、今日はわざとらしく全然別の場所を攻めてきたりする。
だから俺は、思わずザックスの顔を凝視していた。
「…悪い」
ばつが悪そうにそう言ったザックスに、俺は静かに首を横に振る。そうだ、悪いのはザックスじゃない。皮膚を要求する俺の方が本当は間違ってるんだから。
でも俺はそれを口に出さずにザックスの出方を伺っていた。
すると、ザックスは答えを出すかのようにゆっくり手をひいて、やがて完全に俺の体から自分の身体を引き離した。
それを皮膚で感じた瞬間、ああ、もう駄目なんだって―――――俺はそう思ってたんだ。
そしてそれは本当になってしまった。
「今更何だよって思うかもしれないけどさ。俺はもう無理だ。…悪い」
溜息を吐くように髪をかきあげながらそう言うザックスに、俺はこう質問する。
「何かあったんだ…?」
「…いや。あったっていうか…まあ、今迄だって分かってた事なんだけどな。その、お前にはセフィロスがいるだろ」
「…うん、そうだね」
「あの人はお前のことすげえ考えてて…そういうの目の当たりにすると、さすがにこれ以上俺は此処に居れない気がするんだよ」
―――――ああ、そうか。
俺はザックスの言葉を聞きながら、何となく胸が痛むのを感じていた。
俺は俺なりの正当性をもってザックスと関わり、それからセックスまでしてきた。それは愛とか恋とかそういう次元とはまた違った、それでも遊びじゃないものだった。
でもそれは世間の常識からすれば間違いで、ザックスもまたその世間の中に帰っていったってだけの話なんだ。
だから、バツを受けるのは俺の方。
大切な大切な皮膚の下を失うのは、俺の方。
「お前が寂しいって、辛いっていうから…それが紛れるならそれでも良いかって思ってた時もあったけどさ。でもセフィロスの立場になってみたらやっぱ辛いわ、それって。男の俺が体がどうのってぐちゃぐちゃ言いたくないけどさ、これは立派な浮気になっちまうんだよ」
「知ってるよ」
俺はなるべく穏やかな顔をしてそう言う。もし此処で寂しそうな顔なんか見せたらザックスが困るって事は目に見えてるから。
俺は別にザックスを困らせたいわけじゃない。
そうじゃなくて…純粋に、心を許せる皮膚の下であって欲しかったんだ。
それは、とても贅沢な友達の定義だったけれど。
ザックスは「悪いな」ともう一度言うと、ぱさり、と上着を羽織った。
俺はそれを見ながら、大切なものを一つ失った悲しみをそっと、胸の中でかみ締めてた。
「なあ、クラウド。だからってこれは別に、お前と友達やめるって話じゃないからさ…」
「分かってる。ありがとう、ザックス」
胸にしくしく染みる痛み。
ザックスの言葉はとても優しくて嬉しいし、俺は多分これからもザックスと友達でいるけど、でもやっぱり今日この瞬間に失ったものがあるのは確かだ。
これからきっと俺とザックスは、以前みたいに良き相談相手みたいになるんだろう。
だけどきっともう「寂しいから」といって呼び出すことはできないし、そう言ってみてもザックスは来てくれないだろう。
セフィロスとの間に特にこれといった問題もないのに、寂しいなどと言われても、せいぜい酒でも飲んで馬鹿話をするくらいだ。
もう、人肌を感じて安心することはできない。
「ありがとう」
俺はもう一度そう言うと、今までのザックスの好意に対して精一杯に笑った。
今、俺のより所は、当然のことながら―――――セフィロス一人。
それが正しい。
大好きなセフィロス。
俺は今迄セフィロスに対して素直じゃなくて、気持ちを計り続けてた。
誘いをかけて、わざとらしくしてた。
でも、その夜を境に俺は、セフィロスに対してそういう事をしなくなったんだ。
つまりそれは、余裕が無くなったからだ。
ザックスという「余裕」が。