わずかな時間の進み【セフィクラ】

セフィクラ
■SERIOUS●SHORT

憎い。でも愛していたい。人間は複雑であります。またまたちょっぴり本気系!(つまりいつも通りです/笑)


わずかな時間の進み:セフィロス×クラウド

 

「俺はもう要らないの?」

「ああ、そうだ。お前はもう用済みなんだ。分かるだろう、クラウド?」

 

分からない。

分からないよ、セフィロス。

どうして?

 

ほんの昨日まではこの身体を抱きしめてくれた。

それなのに、こんなほんのわずかな時間の進みが、俺達の間にあった何かを変えてしまったの?

ねえ―――、

 

「クラウド、お前は何かを勘違いしている」

「え…?」

「お前はきっと、俺の愛がなくなっただとか、そんなふうに思っているはずだ。違うか?」

「……」

 

愛なんて言葉、俺には考え付かなかった。

だってセフィロス、セフィロスの口からその言葉を聞いたのは今日が初めてだよ。

その存在を否定するときに初めて使うなんて、だけどセフィロスらしいよね。

悔しいけど、そんなところも好きなんだ。

そんな俺の想いとは裏腹に、セフィロスは息をついて言葉をつづけた。

 

「だがな、俺はそもそも最初から愛してなどいない。あるはずもないものを、無くなったと嘆く。馬鹿らしいにも程がある。そもそもそんなものは最初から存在していないんだ」

 

つまりそれは、最初も今も、何も変わっていないということだ。

セフィロスはそう言った。

俺はその言葉を否定することは出来なかった。少なくとも口に出しては。

でも、心の中でひっそりと思ってた。

 

変わってないなんてこと、無いんだよ、セフィロス。

セフィロスがいうように、俺達の関係に愛なんてものは最初から最後まで存在していなかったとしても、変わったものはあるんだよ。

 

喜びは無くても悲しみは増えるんだよ。

愛はなくても憎しみは増えるんだよ。

それを教えてくれたのは貴方でしょう―――?

 

数日後、俺はセフィロスが新しい玩具を手にいれたことを知った。

俺の全然知らないやつだったけれど、少なくとも俺は、そいつが俺とおなじように近い将来セフィロスに捨てられてしまうことを確信していた。

 

セフィロスと繋がるやつは、大体それを吹聴する。

虎の威を狩る狐ってやつだ。

でも、それがいかに馬鹿馬鹿しい事か俺は何となく分かってた。

 

セフィロスとの関係を自慢する奴は、セフィロスを好きなんじゃない。セフィロスと繋がることができた自分が好きなだけなんだ。だからそうやって簡単に吹聴できる。それがセフィロスにとってどんなにマイナスかも知らずに。

 

「俺、秘密にしてたのにな…」

 

俺は…セフィロスと自分の関係を誰にも話さなかった。

セフィロスに呼び出されたときも、誰にも見つからないように細心の注意を払ったし、今でさえ俺が過去関係を持っていたことは誰も知らないだろう。

 

俺は、そういう俺の態度を、少しばっかりは評価していた。

でも、それと同時に、誰にも伝えなかったということは、セフィロスの中での俺の存在もそれだけ希薄で、誰よりも真っ先に忘れられてしまうだろうことをも示していた。

そのことは、俺を悲しくさせた。

 

ねえ、セフィロス。

貴方が否定の為にはじめて口にした愛というものを、俺はきっと貴方に求めたかったけれど、今では…いいや、最初からそれは無理だと分かってた。

だけど貴方が新しい玩具を弄んでいる今でさえ、俺は貴方を頭からも消すことができないんだ。

 

貴方が俺をもう不要だと、用済みだと言ったみたいに、俺だって貴方のことを用済みだって、もう要らないって、本当はそう言いたいんだ。そうしてしまいたいんだ。

だけど俺はそれができない。そんなふうに貴方を切り離せない。貴方との繋がりはこのつたない身体だけだったかもしれないけれど、俺の身体は俺の心と繋がってるんだよ。ねえ、その事を分かってる、セフィロス?

 

貴方の身体から切り離された俺の身体が、俺の心に伝えるんだ。

悲しいとか、辛いとか、憎らしい、って。そう。

――――許せないよ、セフィロス。

 

数日後、俺達一般兵の前に、ソルジャークラス1stがやってくる演習があった。元々その演習でやってくるはずだった1stが任務で駆り出されたことによって、その日の演習には奇跡的にセフィロスがやってくることになったんだ。

皆は、びっくりするくらい浮かれていた。

あのセフィロスがくるんだってよ!、とか、今日さぼらなくて良かったぜ、とか、色々なことを口にする。

 

だけど俺は一人、喜べなかった。

喜べなかったけれど、有難いとは思っていた。

だってセフィロスは、この世で最も強い人だ。その人の演習。俺は、セフィロスに教えてほしいことがある。だからこうして仕事として会える事は嬉しい。

 

俺は、あの日のセフィロスと同じように、セフィロスを用済みだと思いたいんだ。悲しみと憎しみしか生み出してくれなかった貴方に、そんな気持ちをくれた貴方はもう要りませんと言いたいんだ。

 

一般兵は、俺を含めて50名近くはいた。

そこに、セフィロスがやってくる。

セフィロスは50人近くいる中から、たまたまなのか、それとも必然なのか、俺を見つけ出して、暫く俺の方を見て黙っていた。

そして…こともあろうに俺を指名した。

 

「おい、お前。お前、少し相手になれ」

 

周囲は当然ざわついた。

何しろあのセフィロスの相手をしろというんだ。

一般兵と1stなんて、尋常な組み合わせではない。そもそも演習は、そういうものをやるプログラムではなかった。

でも―――上等だよ、セフィロス。

 

俺はセフィロスの前に足を踏み出すと、まっすぐにその人を見据えた。

久々に見るセフィロスは、俺を抱きしめてくれたあの日と、俺を捨てたあの日と、まるで変わりがなかった。相変わらず精悍で、怖いくらいに綺麗で。

 

「―――”はじめまして”。クラウド・ストライフです」

「……」

「”セフィロスさん”、折角の機会なので、是非セフィロスさんのような強い方に教わりたいことがあるんです」

「……何だ」

 

セフィロスは、他人行儀な俺の態度を不審に思ったのだか、ぴくりとも表情を変えずにそう返答する。

 

「―――完璧な人の殺し方が、知りたいんです」

「……なに?」

 

俺の目の前で綺麗な顔がゆがんだ。

そんな、驚くほどのことじゃないでしょう、セフィロス。

貴方ほどそれを簡単に、しかも大量にやって来た人はいないじゃないですか。

 

貴方は、戦場で多くの命を奪った。

それは会社のためかもしれない。

だけど貴方が玩具にして捨ててきた多くの身体は、その繋がった心を傷つけて、この気持ちをも殺してきたんです。ねえ、そうでしょう?

 

「俺、神羅に入って分かったんです。俺達兵士は、消耗品なんです。必要な時だけ駆り出されて、必要なときだけ重宝されて、いざというときには簡単に捨てて存在すら抹消できてしまう、そういう消耗品なんです。どれだけ傷つけて捨てたって問題ないって、そう思われるような消耗品なんです。面白いですよね、ミッドガル市民にとっても同じようなものです。神羅の人間だといって重宝するくせに、所詮一般兵かってバカにする。そのくせいざとなったら守ってくれだなんて言う。面白いですよね?」

「何を言ってるんだ、お前…」

「でも、そんなの悔しいじゃないですか。――だから俺」

 

だから俺ね、セフィロス。

思ったんだ。

 

だったら、消耗品だといって捨てられる前に俺が捨てる。

俺の心が死ぬ前に、相手の心を殺してやる。

貴方が得意な、完璧な人の殺し方――ーそのやり方を、俺にも教えてほしいんだよ、セフィロス。

 

「……お前は。それを習得して、それで満足できるのか」

 

静かなセフィロスの声が聞こえてくる。

周囲は俺のおかしな思考にざわついていたけど、最早俺にとってそんなことはどうでも良かった。なんとでも言えば良い。なんとでも。

 

「それは分かりません」

「満足できないかもしれないのに知りたいのか。完璧な人の殺し方を?」

「はい」

「…今この場にいるのが俺だから良かったようなものの…そんな危険思想を口にすると逆賊と思われても仕方ないぞ。気をつけろ」

「そう思われても構いません」

「…お前」

 

セフィロスが俺を睨んでくる。

昔の俺だったら、きっと怖かったんだろう。

だけど今はもう、怖いとは思わなくなった。だって今の俺の中には、悲しみとか辛さとか憎しみしかない。

 

「それに俺…それをセフィロスさんに教えてもらえるなら、あとはどうなろうと本望ですから」

「……」

 

ねえ、セフィロス。

喜びは悲しみに変わるけど、悲しみは喜びには変わらない。

愛は憎しみを産むけど、憎しみは愛を産まない。

悲しみとか憎しみとか、そういうものしか残らなかった俺の心は、もう元には戻らない。だからね、もう殺したいんだよ。

貴方が俺を要らないと言ったとき、俺は何かを失ったんじゃなくて、何かを増やしてしまったんだよ。その増やしたものを、俺はなくしたいんだ。

 

そうじゃなければ俺は、喜べない。

そうじゃなければ俺は、愛せない。

俺は、喜びたい。

愛しいと思いたい。

貴方を―――――好きだと思っていたい。

だから。

 

だからその為に―――――増えてしまったものを、殺したいんです。

 

ほんのわずかな時間の進みが、誰かの心の中にあるものを変えてしまうように、ほんのわずかな時間が俺の中にあった何かを変えてしまった。

でもそれは、ほんのわずかな時間の進みが、俺をまた変えてくれる…そういう証明であることを、俺は信じていたい。

 

END

 

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