インフォメーション
とてもとても寒い夜の物語。読後にぜひFF7本編を思い出してみて下さい!ある意味それが本当の答えかも??
スープ:セフィロス×クラウド
とてもとても寒い夜。
ベッドに潜り込んでも体の芯が冷えきっていて寒くて仕方がなくて、エビのように背中を丸めた。
そういえばこの体勢は、母親のおなかの中にいた頃と同じなのだという。無意識に安心しようとする心が体を動かすのであろうか。
とてもとても寒い夜。
脳裏に浮かんだのは、いつだったか幼いころの、やはりこんなふうに寒い夜のこと。
寒すぎて眠れなくて、震えながらリビングのほうに歩いていったらば、そこに暖かなスープがあって、なんだかものすごくホッとしたものである。
だけれど一番心に残っていたのは、スープの隣に置かれた小さなメモだった。
メモには書かれていた。
“愛する息子へ”
それを見て、泣きじゃくった。
そのたった一言の文字は、母親のものではなくて、父親のものだった。そうしてそのメモを最後に、父親はどこかへと姿を消してしまったのである。
それ以降も母親はその日と同じスープを作り、それはとても美味しかったのだけれど、その都度その記憶が蘇って、スープが喉に突っかかった。
とてもとても寒い夜。
こんな夜は、そんな切ない思い出が蘇る。
丸まって、安心したくて、それでも脳にじんわりと浸透するそれらの思い出は心を、安心というよりも不安に似た気持ちにさせた。
安心したい。
安心したい。
あのメモを見る前、暖かなスープがそこにあったことにホッとしたように。あの一瞬と同じように。
「どうした?眠れないのか?」
声が聞こえてその方向を見やると、そこにはセフィロスの姿があった。
セフィロスは、自宅にクラウドを招いて一緒に食事をしたり歓談したりしては最後に泊まっていけと言う。
それだからクラウドはセフィロス宅のベッドで眠ることにするのだが、そういうときセフィロスはクラウドを先に寝かせた。同じベッドに入ってくることはない。
セフィロスのことは好きだったが、自分のものではないベッドで眠ることは不安だった。
壁一枚はさんだ向こう側でセフィロスは仕事をしているらしいのだが、それでも落ち着かない。
だからベッドに体全体で潜り込む。
それで、強制的に眠るのだ。
そんな具合だったのに、今日はどういうわけかセフィロスがやってきた。
「今日は寒いから、眠れないんだ」
「そうか。確かに今日は冷えるからな…」
セフィロスはベッドの端に腰をかけると、クラウドの手を握り、温めるようにさすった。
「手が冷たくなっている。暖かいものでも飲むか?」
珈琲か、ミルクか、ココアか、なんでもいいが。
眠気覚ましといわれる珈琲も、就寝前に飲めば寝覚めがスッキリするのだという。
「ううん、いいよ。大丈夫」
「スープもあるが」
「…ううん。大丈夫。ありがとう」
あの日みたいに、スープを飲んだらほっとするだろうか。
だけれどスープを飲んだら、飲み終えた後、大好きだった人が消えてしまったという現実を目の当たりにするのじゃないか。あの日のように。
母親はあの日と同じスープを作り続けながら、何を思っていたのだろうか。
きっと、いいや、絶対に悲しんでいるのだから、自分が守ってあげなくちゃ。
我儘言わないよ?
大丈夫だよ?
俺は大丈夫だから。
―――――そう思ってきたけれど。
「……あのさ。スープは要らないから、眠るまでここにいてほしいんだ」
ねえ、やっぱり、大丈夫じゃない。
悲しいし、寂しいし、心細かった。
「どうした、突然寂しくなったのか?」
セフィロスは少し笑ってそう言った。厭な顔はしていない。
「ちょっとね。手握って貰ったら、あったかかったから」
「そうか」
じゃあ、お前が眠るまでこうしてよう。
そう言って、セフィロスはクラウドの希望を叶えた。
手から伝わる温もりはあのとてもとても寒い夜のスープの暖かさと同じで、凍えた心をすうっと満たしていく。
どうかどうか、この暖かさが続きますように。
スープを飲み干さなければ、暖かさがなくなったことに嘆くこともない。気づくこともない。
だからどうかこの手を放すならば、眠りについて、意識がなくなった後でありますように。
そう、願ってた。
翌朝、目が覚めると、手がじんわりとにじんでいた。
どうやらセフィロスはクラウドの希望通りに手を繋ぎ続けてくれていたらしい。しかも彼はクラウドが眠った後もそのままにしてくれていたのだろう、二人の手は繋がれたままだった。
「ありがと」
きっと、消えない温もりもあるのだろう。
それは、悲しさや寂しさや心細さや、自分の弱さを認めた時にようやく見えてくる。
つながれたままの手。
飲み終えても飲み終えても新しく作られるスープ。
とてもとても寒い夜、それが体の芯まで冷えるような寒い夜であっても、安心して良いのだと、そう気づいた。
END