ロクでもない俺の傍に【レノルー】

レノルー

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■SWEET●SHORT

珍しく体調不良で弱気なレノ。そんな彼の本音のはなし。


ロクでもない俺の傍に:レノ×ルーファウス

 

気持ち悪い。吐き気する。

目ん玉の奥が痛い。

俺、病気かな?

俺、死ぬのかな?

そんなことをいつまでもいつまでもぼやいてる。

 

体調不良は嘘じゃない。

けど病院にいくまでもないかと思ってる。

死んだらそんときだろ、くらいに生きてるから。

 

しかしそれにしても体調悪い。

こんなふうにダレてるときは、もう何もしたくない。誰とも話したくない。

だけど、それなのに、誰とも繋がっていないと思うのはあまりにも辛い気がした。

 

誰ともいたくないのに、それでも孤独は嫌だ。

そんな馬鹿馬鹿しい我儘を胸に、ぎらぎら光った太陽の下でせめてもの呼吸をする。

ああ――――やっぱ死ぬのかな、俺。

 

「だから。どうして医者に診てもらわない?」

「俺、社長と違って温室育ちじゃないんで」

「はあ?今はそんなこと言ってる場合じゃないだろう」

 

あきれ果てた社長の顔を見るのも何だか面倒で、俺は眼を瞑って言葉だけの返答をした。

あーあ、本当だったら楽しいデート中のはずが、俺の体調不良で全部、ぱあ。

俺だって悔しいんだよ、そりゃあさ。

だけどルーファウス社長が悔しがってるのは、どうやらそういうことじゃないらしい。そもそも体調不良なのにわざわざ呼び付けるな、ということらしい。

 

ちょっとくらい良いじゃないか。

こんなときくらい。

レアカードだぜ?

こんな弱気なレノ様は。

俺は俺の大好きな赤いベッドの上で、うだうだとそんなことを考えていた。

 

「悪いが、私はお前が思っているより忙しいんだ。体調不良は医者に治してもらえ。私を呼ぶのはその後にしてくれ」

「冷たいなー」

「冷たくない、私は真っ当なことを述べている。私には、お前の体調不良の原因も症状もその解決方法も分からない。自分にできないことをそのまま放置するのは嫌なんだ」

「そうなんだ」

「そうだ」

 

確かに、社長は真っ当なことを述べてるのかも。

社長は医者じゃない。

つまり、専門じゃないやつに、こういうことは分からない。

だけど何でなんだろう、社長。

俺の体調不良は、確かに医者が治してくれるかもしれない。けど、俺の弱った心は、医者じゃ治せない気がするんだ。

 

それはだから、社長が専門なんじゃない?

俺の場合は。

 

「じゃあ、私は行くからな」

 

社長は俺の傍から離れると、俺のテリトリーから離れようと玄関へと足を向けた。

俺の家。

俺のテリトリー。

本当だったら、俺のテリトリーに入った瞬間に、誰も逃がさないのが普通なのに。

それなのに今日はどうやら、完璧なる歩行者天国。

 

「…なあ。ちょっと待ってよ社長」

「?」

 

俺の目は相変わらず閉じたまま。

けど、社長が立ち止まったのが分かった。

 

「傍にいてよ」

「え?」

「傍にいてよ。俺、治してほしいなんて思ってないから」

 

治してほしいわけじゃないんだ。

そりゃあ体調不良じゃない方がいいにきまってるけど、だけど治してほしいわけじゃない。

視界がぐるぐるする。

汗が噴き出る。

ああ、熱があるんだな。

 

だけどそんなのどうでもいいよ。

俺が欲しいのはさ、社長――――。

 

「…何だかお前らしくないぞ、レノ」

「たまには良いだろ、こんな俺も」

 

俺は頑張って口の端をくいってな具合に上げて笑ってみせた。

だけど目は閉じてた。

これが今の俺の精一杯。

目を開けたら、そこに社長はいないかもしれない。

けど、閉じた目の中にはいつでも社長がいるんだから。

 

そうだよ。

俺が欲しいのは、ただ一つの事実。

 

「――――仕方ないやつだな、この我儘男」

 

ちょっと甘い響きの台詞が俺に振りかかる。

俺の顔に影が出来て、やがてその影はひんやりとした感触を俺の唇に落とした。

折角のこのチャンスに、俺はその唇を貪ることすらできない。

 

ああ、でもいいや。

だって俺、これでも今、マックス嬉しいんだ。

社長が他の誰でもない、こんな弱ったロクでもない俺の傍にいてくれてるんだっていう―――その事実。

 

END

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