守護法(1)【ツォンルー】

ツォンルー

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■SERIOUS●LONG

不安から、謎のクラブDICTである商品を購入したルーだが…。 ★18↑

守護法:ツォン×ルーファウス

 

何となく触れ合った。

そんな曖昧なところから始まったものでも、それは恐らく酷く大切なもので、だからこそそれが無くなるのは想像するだけでも嫌だった。

でも、思えばそれすらただの守護法だったのだろうか。

ほんの少しの寂しさから逃れる為の、あまりにも大きな守護法。

 

 

 

「今日は用事があって」

そう言われて約束が無くなるような日は、決まって不安になった。

それは、もしかしてそれほど好きじゃないんだろうか、とか、本当はどうでも良いと思われてるんだろうか、とか、そんな類のいわば過小評価だった。

ルーファウスにとって目下恋人関係であるツォンという部下は、大方はそう思わせないだけの行動をしてくる。だから、基本的には不安に陥ることはないのだが、たまに約束が無くなるとルーファウスは途端にそんな不安に襲われた。

それは悪循環のようなものである。

もし仮に、そういう不安が頻繁に起こったとしたら、それは辛いなりにも「またか」ということになる。けれどそれが稀に起こるものだから、妙な不安に取り付かれるのだ。

それは多分、優しさや甘さに慣れ切ってしまった証拠だろう。

「用事か…どんな用事なんだ?」

例によって約束が無くなってしまったその日、ルーファウスは神羅の長い廊下の途中で、目前のツォンを見遣りながらそんなことを聞いた。

夕暮れ時の廊下は、淡い光が差している。

その中でこんな事を聞くのは何だか勘ぐるようで嫌な気もしたが、それでも不安を払拭するためには仕方無い。といってこの答えが、他の誰かと会うから、という理由だったらそれはそれで落ち込むことになるのだろうが。まあこれはいわば嫉妬なのだろう。

ツォンは、目前のルーファウスの気持ちを悟ってか、少し笑って、

「野暮用ですよ。少し寄ろうと思っている店があって」

そんなふうに言った。

それを聞いたルーファウスは、何だ店か、そう思ってどこかホッとする。しかし一瞬のその安堵が急に恥ずかしくなって、そうか、じゃあまたな、などと言葉を切り返した。

それは時間にして2、3秒といったところだったが、多分ツォンは気付いてしまっただろう。もし誰かと会うような用事だったらルーファウスがどんな表情をするか、に。

しかしそれを深く考えるのも何だか嫌で、ルーファウスは頑張って笑顔を作るとその場を去っていった。

 

ツォンとの約束が何も無くなったルーファウスは、自分もたまには独りでどこかに寄ってみようかと久し振りに寄り道をした。

ミッドガルに点在する店は様々だったが、独りで寄る店ともなれば限られてくる。別段ショッピングを楽しもうという気持ちはないから、バーのような場所でなければどこでも良い。そう思って宛てもなくフラフラと歩いていると、ふと小さな看板が目に留まった。

「?」

その看板には、こう書かれている。

“DICT”

……何だ?

そう思い吸い寄せられるようにして歩を進めると、看板の脇から何かがニュッと現れた。それはあまりにも唐突だったから、ルーファウスは思わず声を上げそうになったものである。

しかしそれを寸でのところで堪えたルーファウスは、唐突に出てきた物体をまじまじと眺めると、先程まで驚いていた割には自分から口を開いた。

そこにいたのは、正真正銘の人間である。

「…此処はどういう店だ?」

要点だけ問うたルーファウスに返ってきたのは、肉付きの良い大男の、笑みを帯びた言葉だった。

「お兄さん、お目が高いですよ。此処はね、秘密のクラブなんです」

「秘密のクラブ?」

クラブ―――というのは、どういう意味のクラブなのだろうか。

そう思って思わず眉を顰めたルーファウスだったが、目前の男が言うには女の匂いのする場所ではないという。ということは、所謂、俗的な場所ではないらしい。

しかしだったらどういう意味で「秘密」なのかが疑問である。

「お兄さん。此処は少々値が張ります。しかし様々な遊びが実現できる夢のような場所ですよ。もしも懐に余裕があるなら、是非……」

「懐にって…」

余裕が無いわけでは勿論無い。

ということは、この男の言う「様々な遊び」が実現できることになるが、それにしてもいかにも怪しげである。値が張るというからには相当な設備か何かがあるのだろうが、それが秘密となれば危険な匂いがしないでもない。もしこれが俗的な意味でのクラブならばまだ頷けようものだが、そうじゃないというのだから訳が分からない。

結局ルーファウスは、その男に「別に良い」と告げると、そのままその場を通り過ぎた。内容の一端すら分からないなんておかしいし、無闇に足を突っ込んでトラブルにでもなったら大問題である。

そうしてルーファウスは、結局近場の店をフラフラとして帰っていった。

 

家に帰ると独りで、ルーファウスは適当にテレビをつけてみたもののそれに注視することはなかった。

ただ、音のある空間でゆっくりと腰を据える。

咽喉を潤すために一杯の紅茶を注いだが、それもなぜだか進まない。

その間ルーファウスが何をしていたかといえば、テレビの雑音の中、紅茶を手にしながらもそれを飲まず、ただツォンのことを考えていた。

ツォンはもう帰宅したのだろうか―――そんなことを考える。

もし会っていたら、きっと今頃まだ二人でいたのだろうが、残念ながら今日はこんなふうに独りである。それでもツォンはまだ帰宅したかどうかも分からないし、例えそれが気になっても確認するだなんてできるはずもない。

少しでもそんなことが気になったり確認したくなるのはきっと、よほど不安だからだろう。ツォンは先程、店に寄ると言っていた。つまりそれは人に会う用事ではない。それならば嫉妬などする必要も無いだろう。

しかし、何故だろうか。

何だかそんなことにすら嫉妬らしきものを感じる。

それが物だろうと店だろうと事象だろうと、ともかく何であろうと、「自分はそれほど好かれていないんじゃないか」とか「本当はどうでも良いんじゃないか」という気分になってくる。自分のことをさして好きじゃないから、本当はどうでも良いと思っているから、その他のことをするのではないかと…何だかそんなふうに思ってしまう。

「…重症だ」

思わず溜息をついたルーファウスは、やっとのことで紅茶を一口飲むと、もう一度大きな溜息をついてから目を瞑った。

いつの間にこんなに弱くなってしまったのだろうか。

ツォンは二人きりになると、いつもルーファウスを安堵させるが如くにそれらしい言葉を口にする。それは疑いようもないほど真面目なもので、いかにツォンが自分を想ってくれているかがわかる。但しそれは、年端もゆかない人間のそれとは違い、常に共に在ったり、常に触れていたり、常に何かを与えてくれるような、そんなものではなかった。

愛情の確認をするとき、それは直接的なものであるほうが判り易い。そうなると、どちらかといえばツォンの愛情表現とは異なるような、直接的なものこそが簡単だということになる。

いつも側に在ったり、いつも触れていたり、いつも何かを与えてくれたり…そういうほうが簡単に確認できるから。

しかしツォンはそういった人間ではなく、たまに口にする言葉やたまに触れる肌が一際強く愛情を表すタイプの人間だった。それはそれでルーファウスを満足させたが、それでもこうして日頃の小さな出来事一つ一つに関してはいまいち満足させてはくれない。というよりも、不安になってしまうのだ。

多分それは、ルーファウスの欲しているものと、ツォンの与えているものの差なのだろう。若しくは、愛情に対しての欲求の差なのかもしれない。

おそらくツォンは、頻繁に何かをせずとも安心ができ、その範疇で幸せを感じることができるのだ。しかしルーファウスはそういうふうにはいかなかった。多分根底ではツォンと同じように考えている部分もあるのに、それがたった少しの衝動で崩れそうになる。それは不安というやつだ。

―――それでも、好きでいてくれていることは分かっているけれど…。

「分かってる、分かってるんだ…」

それなのに、何故こんなに不安になってしまうんだろう。

そんなふうに思いながら、夜は深度を増していく。

 

 

 

翌朝、出社した際にある人物と出会ったルーファウスは、珍しいこともあるものだと思いその人物に話しかけた。

その人物とは、ツォンとともにタークスとして動いているレノである。

レノは神羅のエントランスの前で佇んでおり、出社時刻だというのにまだ建物の中に入ろうとしない。その様子が気になったこともあったろうか、話しかけたのは。

「お早う。どうしたんだ、こんなところで」

そう声をかけると、レノはチラとルーファウスを見て小さく頭を垂れながら「おはようございます」と割りと丁寧な調子で返す。

それから、どうして建物の中に入らずにいるかということへの答えを口にした。

「人を待ってるんです。そのおかげで遅刻しそうなんですけど」

「だったらタイムスキャンをしてから中で待てば良いじゃないか」

尤もなことを言ったルーファウスに、レノは「いやあ…」なんて言って頭をポリポリかいたりすると、それはできない、と言う。何がどうしてそうできないのか良く分からないルーファウスは首を傾げたが、レノの言葉の続きを聞くや否やそんなふうには出来なくなってしまった。

「ツォンさんに此処で待つように言われてるんで、多分ソレは無理です」

「ツォン…?」

一瞬ドキリとする。

一体ツォンが何でそんなことを言ったのだろうか、それも気になるところだが、何となくそれとは違うものでルーファウスは鼓動を早めていた。

何だろう、この感覚は。

「…昨日俺の武器がちょっとイカれたんで。ツォンさんがソレ、修理に出してくれたんです。で、それを此処で渡すからって言われてるんですけどね」

「昨日…か」

「ま、そんな感じです」

―――昨日…ということは、野暮用というのはそれだったのか。

店に寄るからというのは間違いじゃなかったようだが、どうやらそれはレノのためらしい。上司としては相当な心遣いだしそれは誉めるべきところだろう。しかしなぜだかルーファウスはそんなふうに思えなかった。多分それは我がままなのだが、それでも何だかモヤモヤして仕方無い。

「あ」

その時、レノが声を上げた。

何だろうと思ってレノの顔を見ると、そこには少し晴れたような表情がある。その表情は、待ち人が来たことを如実に伝えていた。

レノの視線の先にいたのは、紛れも無くツォンである。

ルーファウスはレノと一緒になってツォンの方を振り返っていたが、その表情はあまり芳しくなかった。視線の先にいるツォンはレノの武器らしい物体を抱えており、それを手にしながらコチラに歩いてくる。ツォンは最初レノに気付いて少し笑んでいたが、レノの隣にいるのがルーファウスだと知った瞬間にその笑みを消した。

しかしすぐにまた笑顔に戻ると、

「おはようございます、ルーファウス様」

と挨拶が飛んでくる。

だからルーファウスはそれに同じ調子で返すと、ぎこちないながらも笑みを作った。

 

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