06:BURST OF RAGE 恥辱の言葉
再び与えられた愛撫は、ルーファウスの意思とは正反対に快楽をもたらした。
それは荒々しさの一切無い、状況が状況であれば優しいとさえいえるやり方。しかし、それを望まない者にとっては絡みつく束縛のようなものだったかもしれない。
「ん…んっ」
気持ちが渦を巻くようにグチャグチャになっていくのは、その感覚が与える特殊なものだった。
それに支配されたくはない、そう思うのに口から零れる声は喘ぎに変わる。いまだかつてこんなふうに前置きを必要としたセックスは、ルーファウスには経験が無かった。女に快感を与えるために奉仕することは経験として何度かあったが、自分がそれを受けるとなれば話は別である。
それでもまだ、拒否する心は残っていた。
ただ、それは威圧感を全く失ってツォンの耳に届く。
「いや、だ…もう止め…」
「…嫌?そんなはずは無いでしょう?」
段々と目つきが艶かしく変化していくルーファウスを見下ろしながら、ツォンはそう言い放ち行為を続けた。
あくまで丁寧に、丹念に―――。
それが、相手の思考をおかしくさせるまで。
「納得いかない、ですか?」
ふふ、と意地悪く笑いながらそんな事も口をついた。本当ならばこの状況は正にその口癖通りだったに違いない。
そしていつもなら、直ぐに―――。
「う…さ、い…っ」
“うるさい”――それも口癖ですね、そう心で返しながら、今やそれすらマトモに言葉にできないでいる主人を、ツォンは見下ろしていた。
自分でも器を認めていた主人は、今や自分に組み敷かれ悶えている。
普段きっちり整えられた金の髪は、体の反応に揺り動かされて幾分の乱れを見せており、それは一層、妖しさを引き立てていた。
そして何より、ルーファウスの声はツォンの感情を昂ぶらせた。
これまでの性交渉では痛みが最優先される感覚であり、それから漏れるのは喘ぎのような純粋なものではなく、呻きだとか叫びに近い痛々しいものだった。
それが今日は、違う。
ツォンでさえ初めて見る姿。
「可愛いですよ、ル-ファウス様」
ワザと耳元で囁くようにそう言うと、ルーファウスの表情は微かに歪みを見せる。
何か物言いたげな顔―――だが、それを言わせるはずもない。
「ああ、駄目ですよ。綺麗な顔をそんなふうに歪ませては、いけません」
そう言う端で、股間に伸ばした指でその先端を弄ぶ。
「あ…あっ」
「もうこんなになってますよ?」
もう既に、高く持ち上がり十分な硬さを表していたその部分を、ツォンは勢いづけて上下させる。それに伴って上げられる声は、より一層色づいて聞こえた。
「無駄な我慢はやめなさい。本当はこんなに感じてるのに」
「は、あっ…ツォ、ン…」
「何ですか?」
しどろもどろになりながら発せられた言葉に、ツォンははっきりとした言葉でそう返す。
そして、弄る指先を緩ませた。
ふっと軽くなった感覚に目を細めるルーファウスの要求が、ツォンには手にとるようにわかっていた。しかし、すぐには応えてやらない。十分体温を保ったそれから手を離すと、じらすように太股から膝にかけてのラインを舌でなぞる。
「もう限界ですか?」
答えは無かったが、訴えるような目つきがツォンを捕らえた。
「欲しいなら、ちゃんと言わないとあげませんよ」
その言葉に、ルーファウスはやはり答えを言わずに、ただ顔を背ける。そして、唇を少し噛んだ様子がツォンの目に飛び込んだ。不本意な要求をつけられた羞恥心が、ルーファウスの心に葛藤を生んだのだろう―――それがマザマザと分かる。
「ちゃんと言いなさい」
「…いや…いやだ…」
珍しく、幾分しっかりとした口調が返ってきた。しかしそれはツォンの気分を害すだけの言葉。
「相変わらず我侭ですね、貴方は」
冷めた口調と冷めた目つきで、ツォンはルーファウスを見る。
どうしてそう強情なのだろう、この人は。
人を操り、人を踏みにじり、そして。
守ろうとする―――。
「言いなさい…!」
ツォンの心に、ふいに激しい感情が沸き上がった。
手を高く上げて、勢い良く振り落とす。それはルーファウスの頬に痣を作る程の痛みを与えた。
「いや、だ…っ」
突如として与えられた痛みに、ルーファウスはそれでも譲らない。守るべき言葉と態度が、その痛みのせいで更にはっきりと思い出されたような感覚がある。
「言え!」
容赦無い痛みは、ルーファウスが言葉を吐く度に与えられた。
何度も、何度も、何度も。
言ってしまえば良い、全て。
本当の望みを声に出せば良い。
泣き叫んで、助けでも何でも請えば良い。
そうでしょう、貴方の望むものは―――。
私では無いのだから―――!
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