02:PRIDE 不透明な情報
その情報を持ってきたのは誰だったか。
確かレノだったような気もするが、今ではそれすらどうでも良い事のように思える。問題は情報内容だ。それはツォンにとっては耳を疑わざるを得ない「情報」だった。
『新組織の発足を考えているらしい』
馬鹿げている、とツォンは思う。もしそれが本当だとして、状況が変わるのは只一つ。自分の属する「タークス」のみなのだ。
しかし情報はそれのみで、その他の詳細は一切不透明なまま。それが返って懐疑心を煽り立てる。
何を考えているのだろう、そう思いながらいつも通りルーファウスの執務室へと足を運んだツォンは、その部屋の扉の前ではたと立ち止まった。
中から聞こえたのは、ルーファウスの声。
「―――を…新組織に…」
最初は耳を疑った。だが、繰り返されるその言葉に、やがて笑みさえ浮かぶ。
そうだったのですか、と。
それは知りもしなかった事実だった。知りたくなど無かった。
「新しいものがお好きですか」
手に入れたばかりの機械をいじるのにルーファウスは夢中だった。その前の日までは、長年使ってきた携帯液晶テレビを“暇潰し”と言いながらも、長時間眺めていた。結局は、新しい“もの”が欲しかったのだ。
「うるさいぞ、ツォン」
「つれないですね」
苦笑気味にそう返しながらも、ツォンはしっかりとデスクの上をチェックした。そこには書類と機械の破片が散らばっている。いかにも、手を付けている場合じゃないとでも言いたげな様子である。
「あの液晶は…もう用済みですか」
ふと口をついたのはそんな言葉だった。別段、自分をかさねていた訳では無い。しかし、この主の考え方そのものがそこにあるものと一緒ならば、いつかは同じように古きものは排除されていくのかもしれない、とは思った。
ツォンの言葉に、ルーファウスは手を止めた。そして、怪訝そうな顔をする。
「…何が言いたい?」
「いえ」
「どうでも良い事ならば、わざわざ聞くもんじゃない」
「はい」
偽善的だな、と自分で思うような笑顔を、ツォンは浮かべていた。無意識だった。
――――愚かな考えだ…そう、思いながら。
幾分、機嫌を損ねたかもしれないが、しかしルーファウスがその手を止めたのは良い機会だった。丁度夕食時でもあり、そろそろ作業は中断してもらわなくてはならなかったのだから、この隙に何とか思考を切り替えてもらわなくてはならない。
「ところで。もう良いお時間かと…」
「ああ。分かってる」
そう言いながらも、ルーファウスは惜しそうな目でその機械を見つめた。
余程離れがたいのだろうとは思うが、今のツォンにとってはルーファウスの心に同調する余裕など無い。切羽詰っているという訳では無く、全てを受け入れるだけの心の広さが無いのだ。
かつてこの位置に付いたばかりの頃は、そんな事は考えられなかった。
いつも冷静に物事を判断し、いつも従順――――。
勿論常に、外部に吐き出される感情と心の内にある感情は別物ではあったが、その均衡が崩れていくのはどうにも可笑しい事実だった。
「ルーファウス様」
「何だ」
重い腰を上げ始めたルーファウスが、チラリとツォンを見る。
ツォンは、穏やかな顔でこう呟いた。
「―――待っておりますので」
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