「朝起きる、着替える、コイツをポケットに入れる、辛い時にはコイツを引っ張り出す、見る、元気が出る。…OK?」
「…いや全然」
「おかしいぞ、っと。じゃあもう一度。朝起きる、着替える、コイツを…」
「ストーップ!同じ事を繰り返すな、聞くのが面倒だ」
待ったをかけられて俺は一時停止。早く再生してくれなきゃイカれちまう。
だけど副社長は一時停止したまま俺をジロジロと見てくる。それってやっぱり愛の視線?だったら嬉しいね、有り難く受け取っとく。
「レノ…お前本当にイカれたのか?」
「…それもやっぱり愛の鞭?」
「何処が愛の鞭だ!私は真剣に言ってるんだ。お前がそんな事を言い出すなんて絶対おかしいだろう。大体お前はそういうキャラじゃない」
なるほど、それは一理。確かに俺はそーいうキャラじゃない。
だけどこれまた不思議な「おまじない」効果で、コイツはキャラまで変えてくれる。だって副社長だって同じコトだろ?
分からないって?
じゃあ俺は三度目のヘルプ、三度目の正直。
「いっつもビシッと副社長が、今日はすっかりダウンのルーファウス様だろ?だったらそれも同じコト、“そーいうキャラじゃない”自分なんてゴロゴロしてるって事だ」
そうだろ?
同意を求める俺に、副社長は不意打ち喰らったみたいな顔してる。ほらな、言っただろ?この特殊なおまじない効果ってのはスゴイわけだ。その上俺のヘルプは超絶親切な分かりやすいヘルプときてる。
「そーいう時って完璧ダウンしてる。だから軌道修正じゃなくて最初っから起動しないと駄目。その電源がコイツなんだぞ、っと」
「……」
「ってワケだ。じゃあこのおまじないは副社長に進呈」
副社長は、俺の特製おまじないをまじまじ見詰めながら何だか考え込んでる。そんなに考え込むコトも無いけど、こういう副社長はレアだから俺はそれをしっかり堪能。コレもやっぱり「おまじない」効果?
俺の書いた「おまじない」には、天下一品ヘタレ字一言。
“OK!GO!”。
「…何だか良く分からないけど……ありがとう」
暫くして顔を上げた副社長は、そんな言葉を俺にプレゼントしてくれる。ま、最初の言葉は余計だけど俺は満足。でも副社長、ソイツは常時装備がお約束。だから…。
「決まり!じゃ、コイツは今日から“おまじない”なんだぞっと」
俺は「おまじない」をサッと副社長のポケットに捻じ込んだ。ちょっと皺んなっても大丈夫。何しろ「おまじない」がそれを証明してる。
今捻じ込んだヤツには何て書いてあった?
…そ、“OK!GO!”。
だから、どんなふうに間違っても、どんなふうに転んでも、どんな道に迷い込んでも“OK”。とにかく“GO”だ。
「レノ…お前」
「ん?」
質問大歓迎だけど?
―――と思ったら。
「あ~っ!副社長!!それは反則だぞ、っと!!」
イキナリの襲撃に俺はビックリ仰天。考えてもみなかったんだぞっと。
副社長は突然俺をガッツリ掴むと、不意打ちでポケットに手なんか突っ込んできた。で、何をしたかって言えば当然―――俺の「おまじない」奪取。
…ちょっと恥。
まさか見られるなんて思ってもみなかったけど、まあ人生こんなコトも有。バレたらバレたで仕方無いし、それにコレって愛の証明っぽいし?
「―――お前…これ、いつも持ち歩いてるのか?」
びっくりした副社長が、俺にそんな当然のコト聞いてくる。そりゃそうだ、だって「おまじない」だから。
「…信じられない。まさかこんな物を持ち歩いてるなんて」
「何で?だってコレ、すごいレアだけど」
「レアって…だってこれは…単に私の書いた伝言じゃないか」
そ、俺の「おまじない」は副社長直筆の伝言。ソイツは俺が常時装備してるもんでもうホントボロボロ。だけどソイツは絶対捨てられない俺の「おまじない」なんだぞ、っと。
おまじないの文字は何かって?
ソイツはな――――――“しっかりやれ!”。
ホント笑える。コレってホントは単なる説教。
だけどソイツが意外な効果を発揮して、今じゃ俺にとっては起動スイッチおまじない。俺が何か変なコト考え始めたとしても、俺のポケットの中のコイツはいつだって“しっかりやれ!”ってガツンと説教。
しかも惚れた相手の説教ときてる、ソレを無視するワケにはいかないって寸法。まあ、世の中ウマく出来てる。
「俺はコレみてガツンと気合入れてる。だから副社長はアレを見てガツンと元気出せば良いんだぞ、っと。OK?」
「……っていうか」
「っていうか?」
「―――お前って変な奴」
おっと、コレは一世一代誉め言葉。そーそー、俺は変なヤツで良い。そーいう変なヤツだから副社長は俺に一目、愛までオマケ。だけど今じゃオマケの愛の方がデカくなったってワケだ。それも良いだろ?
副社長は俺を見てちょっとだけ笑うと、やっと俺の言いたいコトを分かってくれたらしくてルーファウスデーをやろうなんて言い出す。
ハイりょーかい、それでこそ俺の副社長。
OK、GO!
「…あ、でも。お前、仕事をサボる事になるんだぞ?言っておくが私はフォローしないからな」
「問題ナシ!もー全然余裕!じゃ、手始めにドコ行く?そりゃ勿論、ルーファウスデーはプライベートだろ?ってコトは神羅はNG」
「別に何処でも良い。お前に任せる」
「りょーかい」
ルーファウスデー成立。俺は俺でレノ様デー。
今日は、副社長もタークスもお休み。
だから俺と副社長はツマラナイ神羅なんか抜け出して、今日はいっぱい自分を満喫予定。そしたら明日からはしゃんとする。何でかって?そりゃ明日からは強い味方登場、そうそう、あの「おまじない」がな。
俺は頭フル回転させてミッドガル地図を広げる。さて、今日はドコをどんなふうに攻めるか?俺の肩にかかったルーファウスデー、やっぱり此処からも腕の見せ所。
だけど、ちょっとその前に忘れ物。
「なあ、最大の“おまじない”があるけど」
俺は副社長を振り返りそう一言。
なあ、知りたいだろ?最大のおまじないってヤツがどんなモンなのか。
「何だ?」
「ちょっと耳貸してくれよ」
俺の言うまま耳を貸してくれた副社長にアリガトウ。
だから俺はとっておきの最大のおまじないってヤツを教えてやるワケだ。ソイツはちょっと贅沢に、副社長の唇あたりにかかるおまじない。
ちゃんと受け取ってくれよな?
「っつ!…な、なな何すんだっ」
まだ昼にもならない午前中、副社長室で激写価値100%のキスをお見舞い。
副社長、意外とこーいうのに弱いな。顔、何か赤いけど?
―――もー…マジ愛!
「ほんっと好き!」
「ばっ!何するんだ!抱きつくなっ、こんな所でっ!」
「良いだろ?だって今日ルーファウスデーだし」
「お前なあっ!」
俺のおまじないは効果100%の最高級品。
柄にもないってことは100%も承知のおまじない。
それでもコイツは、俺にとっちゃ捨てられないハイグレード。
それどころか、惚れた相手はスーパーハイグレード。
だから俺は「しっかりやる」。
OK!GO!、ってふうに。
END