Angry chain(13)【ツォンルー】

*Angry chain

13:SHOULD HAPPY:瞳に映るもの

   

ルーファウス様、貴方はこんなに多くの人間に愛されているではありませんか。
それなのに、それ以上、なにを望むというのですか。

貴方のような人間のために、これだけの人間が一斉に動くのですよ。
馬鹿馬鹿しいとは思いませんか?

貴方はこれだけ多くの人間を裏切ろうとしたのです。
死んで、逃れようとすらしたのです。

だが、もう大丈夫です。

 

貴方の望みは、全て切り崩して差し上げたのですから。
貴方の眼に見えるのは、たった一人―――そうでしょう?

だから貴方を救ったのは、この私です。
これからの貴方の望みは、いつ何時でも叶えられるのですよ。

嬉しいでしょう?

 

 

 

もう貴方は相容れない感情のジレンマに苦しまなくて済むのです。

もう貴方は納得できない結果に苦しまなくて済むのです。

もう貴方は全てを服従させられない事に苦しまなくて済むのです。

もう貴方は苦しい思いに苦しまなくて済むのです。

もう貴方は裏切りに苦しまなくて済むのです。

 

 

何故なら、貴方の眼に映るのは―――――。

 

 

 

どれくらいの時間が経っているか分からない。
それは今も変わりなく、まるでもう何年も過ぎているかのような気がしていた。
実際ルーファウスが時間の感覚を無くしてから、ゆうに一ヶ月は経っていただろう。

だが、それすら分からない。ただ、何となく息をしている。
何となく、生きているらしいという事が――分かる。

空気は淀んでいた。換気を一切しないその部屋に、蓄積された煙草の匂いが染み付いている。しかしそれすらも慣れきって、今では何も感じない。それどころか、その空気を愛しいとすら思う。

 

ガチャリ、と音がした。
ビクリ―――ルーファウスの身体が反応する。

その音は、鍵がかかる音。

部屋の鍵がかかる音は、どういう訳かルーファウスに恐怖を与えた。何故かは良く分からないが、心拍数が上がり、呼吸が苦しくなる。
まるで死んでしまうのではないかという感覚に陥る。
それは、その鍵がかかる音を聞く度に起こっていた。

 

「ルーファウス様、寂しい思いをさせてしまいましたね」

ふと耳に入った言葉に、ルーファウスは目を彷徨わせた。視線の先にはツォンの姿があり、どうやら仕事から帰ってきたらしいというのが窺える。

部屋は明かりの一つも付けられる事無く、闇のような暗さの部屋の隅で、ルーファウスは全身の力が抜けたようにダラリと座っていた。それはもうずっと続いており、その体勢を崩すのは稀だった。

 

毎日毎日毎日―――こうしてツォンの帰りを待っている。

いや、待っているのではないのかもしれない。
ただ、それ以外に何をしようという意思も無いし、此処から出ようというつもりもない。

ただ本当に、息をしているだけ―――それだけなのだ。

「…ツォン…」

真っ直ぐに向けられた視線を受け止めながら、ツォンはルーファウスの頬に触れた。

それから面白そうに笑うと、その頬にかけた手に力を込めてルーファウスの頭を思い切り乱暴に投げ出した。

ガン、と鈍い音がして、頭部が壁に当たる。
幸い血は出なかったが、軽い眩暈がルーファウスを襲った。

「ルーファウス様、貴方を探して皆が動き回ってますよ。貴方は本当に愛されてますね」

「……」

何も返さないものの、ルーファウスの顔が微かに歪む。

「誰も知りはしないでしょう。まさか私の部屋に貴方がいる―――なんて」

あんなに大ごとになっているというのに、結果はこれである。それはツォンだけが知る事実であり、だからこそその動きは馬鹿らしいと思う。

こんなに近くにいるのに―――誰も気付きはしない。

「…あの男にも、貴方を見つけることはできませんよ。…まあその前に、探す利すら与えませんけどね」

あの男の事はもうどうでも良いんでしたよね、と続けながら、ツォンはルーファウスの身体に手を這わせた。

それは、かろうじてボタン一つで閉じられていたシャツを抉じ開け、ゆっくりと白い肌を犯していく。

「あ……っ」

慣れきった身体が、慣れきった手つきに、いつも通りの反応を返す。それはもう習慣のようなものだった。何度と無く奪われた身体が、その感覚を覚えた時からの―――それはもう、ずっと前のような気もする。

「ルーファウス様、絶対に誰にも貴方を見つけることはできないのですよ」

そう言いながら、ツォンは早急に乱れゆくルーファウスの姿を見つめていた。

誰にも、見つけられない。
誰の目にも触れさせない。

「何故だか分かりますか?」

ツォンの言葉は、ルーファウスの耳に届いていないかのように、宙に舞った。

ただ口から漏れるのは、喘ぎの声。
それを耳に、ツォンは目を閉じた。

 

誰にも見つけられない。

それは当然の話だった。

 

ルーファウス神羅の捜索指揮を取り仕切っているのは…。
タークス主任であるツォン本人だったのだから―――。

 

 

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