High smile(1)【レノルー】

レノルー

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■SWEET●MEDIUM

誰かさん為に、俺は毎日極上スマイル。


High smile:レノ×ルーファウス

 

ニコニコニコ。
俺は笑う。

バカの一つ覚えみたいなにっこりスマイル。
俺には余程似合わない営業用並の極上スマイル。

っていっても別に俺の脳ミソ沸騰ってのとはワケが違う。俺は俺の意志で極上スマイルをかましてやってるんだって、そこを間違えちゃイケナイ。

で、何で俺がそんなバカみたいな事を自分の意志でやってるかって言えば理由は単純。あんまりにも単純すぎて自分で呆れるってのは正にこのコト。

――――そ。笑うってからには、その先に誰かさんがいるんだな。

俺はその誰かさんの為に極上スマイルを出血大サービス。

何がそんなに可笑しいのかって?
そりゃ違うんだって、可笑しいから笑うんじゃないんだからさ。

俺の極上スマイルは気味悪いって?
そりゃ酷いんじゃないかなっと、これでも俺、かなり頑張ってるんだけど。

…そ。
たった一人、誰かさんのためにさ。

 

 

 

大安吉日。
正にそんな言葉がピッタリの神羅の朝。

まあコレも俺にとっては単なる普通の朝。でもその普通の朝にニコニコ笑って「おはよう」だとか健全な言葉をかけてくるヤツがいるもんだから俺もそれに乗っかって「おはよう」だとか言ってみる。コレって社交辞令。

「レノ、珍しく早いな。今日は晴れてるけど、これは雷でも鳴るかもな」

「おいおい、そりゃ酷いだろ」

俺は営業用スマイル全開で、神羅のルーファウス副社長に敬礼もとい社交辞令。
で、副社長はといえば。

「なんて、な。冗談だ」

晴れやかなスマイルで俺のハートを射止めるわけだ。俺はすっかり忠犬ハチ公みたいに「貴方の意のままに」って具合。

これは神様もとんだ間違いを起こしたもんだ。
だってそうだろ?

この俺がよりによって忠犬ハチ公みたいに誠心誠意、主従第一なんてどう考えたって間違いそのもの。だって俺ときたら自由が似合う男、辛気臭い縦社会なんてどう考えたって似合わない。

それがどうした事か俺にとってこの副社長、何だかワケ有。

そ、俺はこの副社長の為だったらハチ公にだってなれる。誠心誠意、主従第一、麗しきご主人様。辛気臭い縦社会だって綱渡りでひょいと完了。ちょっとくらい目の上のタンコブがいたって問題ナイ、営業スマイルだってお手のモノ。

なあ、副社長。知ってるかな?
こういうのを世間様じゃ、恋って言うんだってさ。

「じゃあな、レノ。後で話があるからそっちに寄る」

「了解」

俺はスッキリ二つ返事でそう言うと、敬礼よろしく二本の指を突っ立てて額に当ててやる。どこぞの軍隊みたいにさ。

で、副社長といえばそんな俺にご満悦。
それを見た俺も、極上ご満悦。

至って普通、だけど清清しい神羅の朝はこうして大安吉日に大変身。俺にとっての大安吉日ってこういう事、それは副社長、アンタがいて初めて始まるんだ。

 

 

 

こんな俺でもタークスの一員なわけで、仕事ってヤツは容赦なく空から降ってくる。何を隠そうあの副社長がその元凶、俺達の仕事はあの人のゲームみたいなもんだ。

俺のデスクは至ってパラダイスだけど、ツォン主任にいわせれば「汚い」らしい。まあそれでも良いけど、俺の美学を分かってない辺り主任は不合格だな。

まあ俺とはジャンルの違う人間だし仕方ない。
かといって俺はこの主任、嫌いじゃないんだぞ、っと。

何でかっていうとこの主任、俺にはワケが分からないほど几帳面且つ真面目。それって俺の世界にはちっとも無い。俺のデスクがパラダイスなのに対して主任のデスクが稲刈り後の畑みたいになってんのが良い証拠。

そんなに違うのに何で嫌いじゃないかっていうと、こんなジャンルの違う俺らでも共通することはあるからだ。まあその共通のものったって大したもんじゃない。ただ俺は、そういう主任のヤリ方、嫌いじゃないね。

例えばさ、副社長にゾッコンなトコ。

「ああ…まったくあの方はどうしてこう…」

俺の丁度隣のデスクでそう頭抱えてる主任、理由はもうハッキリしてる。俺が「どうした?」って聞くまでもない。

2~3日前に空から降ってきた副社長からのお仕事は何でだか文書で回ってきたんだけど、その文書ときたら極悪。何でかって?そりゃその文書は2~3日前に俺達に回ってきたのに、副社長の鶴の一声はこうだったからさ。

“25日までに完遂の事”。

「くくく…まあ仕方無いんだぞ、っと」

「仕方無いことがあるか!?25日までに完遂だとか言いながら、この文書が届いたのは正に25日なんだぞ!?ああ…全く!」

主任は苦笑いで撃沈。俺はそんな主任に一言、ご愁傷様。

まあ確かにコレはキツイ。いくら俺らがタークスっていってもその日中にこなせる事とこなせない事ってのはある。で、この文書の内容はある調査だから、はっきり言ってその日中にってのは無理ソノモノ。

「ああ…せめて朝に届いていれば…」

「確かソレ、午後に届いたんだったっけ?」

「そうだ。しかも退勤スレスレにな」

も一度リピート、ご愁傷様。

まあこれはタークスにきた依頼だから、ぶっちゃけ俺にも関係ある。だからホントのトコ、俺も頭抱えなきゃなんないんだろうけど、そんな殊勝なこと、俺はしない。

主任は真面目一徹だから考えすぎなんだぞ、っと。
要は結果。25日まで完遂っていっても今日は26日、もうとっくに期限なんか過ぎてる。だったら悪あがきは一切無用、やるだけやりゃそれで良いってな。

主任は「取りあえずやるか」なんて言いながら、椅子の背もたれにかかってた上着を羽織ると、時計なんかチェックしてる。でもって俺の顔を見てくる。俺はそれに気付いて、ニッコリ笑ってこう言った。

「あ、俺ムリだし。今日、副社長が来る予定らしいし」

「?ルーファウス様が?此処に?」

「そーそー」

それは朝に入手したホヤホヤ情報。あの副社長が此処に来るってんだから俺はパラダイスに色つけて絶好パラダイスをご用意、これ常識。

ってことは俺は、そんな調査なんかやってる暇ないんだな。

だから此処は主任に宜しくして、俺はルーファウス副社長と密室パラダイスを敢行。このくらい俺の望み、叶えて欲しいんだぞ、っと。

そんな俺のしおらしい望みを叶えてくれる優しいツォン主任、渋々顔でこう言う。

「…そうか、まあ何の仕事か知らんが…しっかり聞いておいてくれ」

「了解」

「…因みにこの調査に件だったら…」

「任せとけってね、主任」

俺は最近板についた敬礼をツォン主任にしてやると、主任、ちょっと笑って「行ってくる」なんて言う。だから俺はそれを見送ってやるのさ、営業用スマイルでな。

そんな具合でとうとうその部屋は絶好パラダイスに大変身。
ルードは今日は休みだから、ツォン主任が来るまで此処は俺が王様ってワケ。

さて、密室絶好パラダイスになった此処に副社長が来るのは何の為か?
俺は椅子にもたれて足なんか組んで空想少年よろしく頭をグルグルさせる。

まあ分かりきってるのは一つ、俺の為じゃないってこと。まあそりゃ仕方無い。何せ俺ときたら忠犬ハチ公、その格ったら下も下。俺は副社長と肩なんか並べて歩けないわけだ。

つまり俺はあの副社長の背中をジロジロ眺めながら後ろを付いてくそんなちっぽけな存在ってワケ。まあそれも悪くない。

そうそう、何しろ俺が欲しいのは同じ歩幅じゃないんだ。
欲しいのはただ一つ。
「普通そのもの」が「大安吉日」に変わる、そんな魔法さ。

 

 

 

念願の副社長ご来室は、少々遅刻気味の午後3時。
昼メシが終わってダルいまんまのそんな時間、ちょっとダレ気味の俺のトコに副社長はやってきた。

その間の俺ときたら相も変わらず空想少年。あちこちそちこちグルグル脳みそフル回転で、さすがに疲れたなんて大欠伸をしてたトコだったから、まあナイスタイミングって感じ。

で、副社長は何しにきたかっていうとコレまた面白い。俺が今迄グルグルさせてた脳ミソもすっかり沸騰して蒸発しちまったんだぞ、っと。

で。
愛しの副社長は言ったもんだ。

「これ、直してくれないか?」

―――――そ。用件ってば、それオンリー。

つまりこうだ。副社長の持ってきた半壊君ってのはある機械。でもそれはそんじょそこらの機械とはワケが違う。

まあ神羅特製とでも言えば良いんだろうけど、とにかくモノはボイスレコーダーだったわけで、普段機械モノには強めのルーファウス副社長もこの神羅特製ボイスレコーダーにはお手上げだったってわけだ。

「へえ、どれ。貸してみ?」

俺は副社長からそれを受け取ると、絶好パラダイスなデスクの引き出しを速攻開ける。そん中にはナミアミダブツ寸前のドライバー軍団が散乱してて、俺は相当久々にそのドライバーの一つを手にした。

何で俺のパラダイスにこんな辛気臭いヤツがいるかっていうと、俺は元々エンジニア肌だからって話。まあ機械に関しちゃ任せろよってな。…といってもあのキャハハハ女にはお手上げだけど。

俺は素早くソイツをバラバラにしてやった。骨の随までバラバラにしてやって、そいつを今度は律儀に並べてみる。まあ良くも此処までやるもんだって自分でも感心感心。

ホント言えば此処までバラバラにする必要なんて無いけど、そこはご愛嬌。デモンストレーションは必須。

さて、俺のパラダイスはフルコースですっぽり埋まった。で、此処からが問題。
俺の眼から見てこの神羅特製ボイスレコーダーってヤツ、特に問題ナシ。若干古いけどまあまあ良好、神羅保証つきって具合。じゃあ何が問題か?

部品?
それとも接続不良?
答えはNO。どれも違う。っていうか、何もおかしくない。

「副社長、これは別に故障じゃないんだぞ、っと」

報告にそう言ってやると副社長、おかしいな、なんて首を傾げてる。それを見て俺は鏡になり済まして首を傾げる、勿論右に45度。

「おかしいな。確かに使えなかったのに…」

「へえ。で、それはどこがどうおかしかったわけ?」

「ええっと…つまり、録音できてなかったんだ」

「ふーん?」

そりゃ職務怠慢ってやつ、神羅じゃ速攻クビだな。俺は俺の眼で見た事実より副社長を信じて、そのボイスレコーダーを即刻お試し。勿論コレは副社長の眼の前で。俺だってそれほどバカじゃない。テストは必須だって心得くらいあるし。

「あーあー」

俺はソイツに向かって意味不明な声を連発。副社長はっていうと俺の目前でそれをじっと見てる。だもんだから俺の視線はついついそっちに浮気気味ってな感じ。

録音スイッチから手を離した俺は、早速再生ボタンをON。
で、その先?

 

 

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