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くだらない言葉:ツォン×ルーファウス
何の価値もない下らない言葉。
だけどその一言だけで、自分は価値を得ることができた。
ここにいるんだ、ここにいていいんだ、と思えた。
「なぁ、下らないことをきいてもいいか?」
下らないこと?
やつはそう聞き返した。
ああ、そうとも。
とてもくだらない。
仮に世の中がこれを大切にしたとて、私は下らないとしか思えない。だからそうとも、これは下らない話だ。
「一体なんでしょうか?下らないことをわざわざ聞かれるその真意は」
「こざかしい考えを口にしないでくれ。気が削がれる」
「これはこれは。失礼しました」
「そういう態度もむかつくな」
やつは、困ったように笑った。
いや、困ったように笑った――ふうに見せ掛けた。
ツォンは優秀だ。
以前は情にほだされることがあったが、今はもう違う。感情に支配されなくなったとき、否、感情を殺す方法を会得するとき、人間は真実に優秀になる。
優秀であることは精巧なロボットであることと同じだ。ミスのない計算。無駄のない動き。もはや人間である必要性はない。
優秀な彼は、私をがっかりさせるようなことはしない。常に、私がほしい言葉をチョイスする。
さっきのは?
ああ、あれはちょっとしたジャブ。
私が皮肉を口にしたがっているのを、彼は察知したのだ。
「下らないことだが…おまえは私を信用しているか?」
「信用、ですか?」
ツォンは少し意外そうな顔をしてから、もちろんです、と答えた。それはごく真面目な顔で、遊びはない。
ふうん、おまえは私を信用するのか?
わかっていたが、なんだか嬉しい気分になった。どうせツォンはそう答えるとわかっている。だからこれは、私が言わせているに過ぎない言葉なのだ。
「じゃあ、もっと下らないことをきこう」
私はほどなくして、そう口にした。
私のほうを見やるツォンの瞳は、こちらが問う前から答えを知っているふうでなんだかイヤだった。が、それでもやはり止められない。
ああ、ほら、定型句だ。
そうだろう、ツォン?
私も、お前も。
「なあ、おまえは私を愛しているか?」
何度となく問うてきた。
イヤになるほど問うてきた。
下らない、バカらしい。
そう思っているのに、私には定型の解答が必要だったのである。
「はい、心から」
ツォンは、今度は意外そうな顔一つせず、すぐに笑顔になって、まるで感情を取り戻したみたいに優しげな口調になって、その定型句を口にした。
「そうか」
なんて下らないのだろう。
私の心は、定型句の解答に喜びを感じていた。待ちわびた言葉にたどり着いたというふうに歓喜に奮えた。
しかしそれと同時に、何か果てしなく深い虚しさを覚えてもいた。
「ありがとう」
愛していると、そう言ってくれるだけでよかった。嘘でも何でもよかった。ただその言葉を受けるだけで、愛を下らないと感じているこの心が、そして自分が、必要とされているような気がしていた。
END