From SkY…(1)【セフィクラ】

セフィクラ
■SWEET●SHORT

クリスマスの思い出を作ろうと思ったクラがした事とは?


From SkY…:セフィロス×クラウド

 

年末に入って、セフィロスは少し機嫌が悪かった。

理由は明白で、それはこの時期になって色々と仕事が増えたからである。しかも単なる書類だけならまだしも、ソルジャーといえばやはり外に出て何かしら調査だのをしなくてはならないのだ。

それは特に、冬になると誤作動を起こしやすい機械類のチェックだったりしたが、年末年始に帰省するなどという人間の分も、神羅に留まっているセフィロスに回ってくるという酷い事態だったので、これはもうセフィロスにとっては非常にストレスだった。

しかもある日、幹部はこんなことを言ってきたのだ。

「予定では、この調査は24日に行う」

何が悲しくて24日に調査などに行かなくてはならないのか、セフィロスは呆れたものである。しかもその日といえば、大体の人間は社屋の暖かい中で仕事だというのに…。

勿論、セフィロスは寒い中、調査に向かわなくてならなかったのである。

本当にこれは憂鬱な話だった。

 

 

その話を聞いたクラウドは、やはり少し不機嫌だった。

とはいってもクリスマスの約束というのをしていた訳ではなかったし、本当ならそこで怒る必要も無かったのだが、とにかく悉くそうして任務が入るのがクラウドにとっても許せなかったのである。

そんな訳でクラウドはあることを実行していた。それはあまりにも些細な行動の上、反映される可能性も希薄だったが、それでもクラウドは実行した。

それが何かといえば、オファーカードなる物体である。

これは大体年末になると神羅社員全員に配られるカードで、社内についての提案や、不正があったときの極秘報告などに使われるものだった。このカードに書かれた内容は集計されてプレジデントやルーファウスなどの幹部に届けられる。もし此処で不正発覚したら、幹部直々にクビを言い渡されるという、何とも言えないこともあったりする。

しかし提案の場合、大概このカードは意味をなさなかった。何故かといえば、大体が下らない内容だったからである。食堂メニューを増やして欲しいなんて書いたら、速攻却下であることは言うまでも無い。

しかしこの年、クラウドはこれをフル活用した。因みにこのカードは一人一枚という制限がされているため、一人で複数を出すことはできない。

という訳で、クラウドは同じ兵士仲間からそのカードを集め込んで、そのカード全部に同じ事を書いて提出した。

それはたった一言だった。

“12月24日は休みにすべきだ!!”

―――かなり怒りが表れている。

とにかくそんな内容のカードが何通も、幹部の下に渡ったわけである。はっきり言ってそれは馬鹿馬鹿しい内容だと取られそうなものだったが、しかしやはり神羅幹部も人間だった。

たまには休みたかった。別段12月24日でなくとも良いから休ませてくれ、と実は思っていたりした。そんなカードがきたんだ、という噂を聞いた他の幹部軍団は、そそくさとカードに同じことを書いて提出した次第である。

そしてまたその噂を聞きつけた居残りのソルジャー軍団は、クリスマスに休めるなんて美味しいな、そんなことを言って自分たちのカードにもそそくさと同じ事を書いて提出したりした。

集計を担当した事務のお姉さま達は、クリスマスはラブラブで過ごしたいの、と思っていたため、やはりそれに便乗してそそくさとカードを提出した。

何と言うことか、噂が噂を呼び、誰もがそのカードを提出したのである。

しかもほぼ同じ内容だったのだからプレジデントもルーファウスも驚いたはずである。今までそこまでカードの提出率が良かったことなど無く、そんなことは今年が初めてだった。しかもどうやら集計の最後あたりに、セフィロスのカードまであるではないか。

そこにはやはり一言あった。

“24日の調査は嫌だ”

それを見て唸った幹部軍団は、結局ある結論を出した。さすがにその日を何の意味もなく休みにするわけにはいかず、でも此処まで要望が高いとなると無視もできないと言うことで、じゃあ半休に、そういう事になった。

はっきりいってそれは、ありえない大偉業だった。

クラウドの怒りから、神羅カンパニーの12月24日は何故か、全員半休になった。

恐るべしカード―――。

 

 

そんな嘘のような事態になり、居残るソルジャーの殆どは休みと同等になった。何せいつもなら一日かけて調査などをするのだ、半日ではできるはずもない。

クラウド達は午前中だけ訓練をしたが、やはり何だか身には入らない感じだった。

セフィロスが休みになったことでクラウドはしっかりと約束を取り付けており、大体夕方から会おうという手筈になっている。何といってもクリスマスだし、とクラウドは少し浮かれていた。何があるというわけでもないが、とにかくこの行事は少し普通と違うらしい。

何がどう間違ったのだか、恋人達の行事にもなっている。

当初クラウドは、セフィロスにそんな約束をできなかった。セフィロスはそういうふうに行事にはこだわらない感じがしたし、もし「クリスマスが何だ」なんて言われようものなら、それこそショックを受けてしまう。けれど、調査が入ったんだ、と言われた時にセフィロスが少し憂鬱そうな顔をしたのをクラウド は見逃さなかった。

きっと、少しは会いたいと思ってくれてるんだろう、そう思ってクラウドは例のカード作戦の実行をした次第である。実際には、セフィロスはそういう理由から憂鬱だったわけではなかったが、世の中には知らない方が良い事も勿論あったりする。

とにかくそんなふうにクリスマスを一緒に過ごせることになったクラウドは機嫌が良かった。何をするというわけでもなかったのに、とても嬉しかったのだ。

最早クラウドにとっては、重要な日が任務に潰されないこと自体が重要だったのは言うまでもない。

 

24日。その日、何故かしっとりと雪が降っていた。それは大体前日から少しづつ降り、そしてその当日には何センチか積もっていた。

ミッドガルの夜景に雪となると、少しはいつものイメージの悪さも緩和されるというものだ。

セフィロスの部屋でその雪をじっと見つめていたクラウドは、ホワイトクリスマスか、そんなふうに呟く。

セフィロスとしっかり会ってはいたが、何かをするという事もなく部屋の中にいたりする。それはそれで良かったけれど、もっと思い出になることがあっても良いな、とも思う。しかしセフィロスといえば、任務から逃れられたことが嬉しいのかすっかり落ち着いていて、取り合えず何かをしようという雰囲気ではなかった。

ぽつぽつとは話をしていたが、特にこれという内容でもない。

「セフィロス、何か思い出作ろうよ」

悩んだ挙句にそんな直接的な言葉をクラウドは口にした。それを耳にしたセフィロスは意味が分からないというような顔をして首を傾げる。

「思い出?例えばどういう?」

「いや、それが思いつかないんだけどさ…」

「じゃあ却下だな」

「えー…」

セフィロスは勝ち誇ったような顔をして笑ったりする。それを見て、思わずクラウドは怒ったような顔をした。折角のクリスマスだというのにセフィロスはやはり、ちっとも特別なことをしようとは思っていないらしい。そういえば、会おう、とクラウドが言った時もセフィロスは「ああ」と別に何でもないように言っていたのだ。

何かいまいち反応が薄いんだよなあ、そう思いながらクラウドは腕を組む。

どうにかしてセフィロスにもっとクリスマスらしさを出して貰いたいが、さてどうすれば良いのかさっぱり思いつかない。此処にもしクリスマスグッズなどがあればまた別なのかもしれないが、不幸にも何もない。

「何か無いかな…」

一人そう呟きながら、クラウドは考え込んだ。何としても思い出を作りたい。そう考え込みながら、ふと窓の外を見遣る。

外には勿論、雪が降っていた。

しかし、それを見て、クラウドは思わず「あ」と声を上げて手をポン、と叩く。どうせセフィロスはちょっとやそっとの事では動じないのだから、これは良い方法だろう。

そう妙な確信をしたクラウドは、ガバッと立ち上がると、突然セフィロスの腕を掴んだ。驚いたのはセフィロスの方である。見上げたクラウドの顔は何だか良く分からないながらもやる気満々だったの だから。

「セフィロス、行こう!」

「行くって…お前、こんな日に一体どこに行くっていうんだ」

「良いから早く!」

「え、ちょっと。おい!」

何だか良く分からないままに、セフィロスは強引に引っ張られて部屋の外まで引きずり出された。さっぱり意味が分からない。

 

とにかく腕を引かれるまま付いていくと、何故か廊下の途中でクラウドは立ち止まった。そうしてそこでクルリ、とセフィロスを振り返ると、にっこりと笑う。それはいかにも優しそうな笑いだったが、セフィロスにとっては、何か企んでいるようにしか見えない笑いだった。

やっとセフィロスの腕を離すと、クラウドは突然こんな事を言い出す。

「じゃあ、セフィロス。此処から俺は逃げる。で、セフィロスは鬼だから10数えるんだよ」

「……は?」

―――鬼、って……。

目を点にさせたセフィロスは、思わず「何だそれは」と聞き返す。それはいかにも子供の遊びにある例の奴と似ているが、まさかそれをやるわけではないだろう。そんなふうに信じたかったが、どうもそれのような気がしてならない。

「セフィロス、知らないの?ほら、鬼が追いかけるやつ。誰かが捕まったら、その人が次の鬼になるんだよ」

「…あのな。そんなことは分かってる。俺が聞きたいのは、何でそんなことをするんだという事だ」

「良いだろ、別に」

「いや、良いだろってお前…」

「じゃ、ちゃんと見つけてね!俺は逃げるから!」

「あ、おい!!」

セフィロスの止める声も振り切って、こともあろうにクラウドは颯爽と逃げていった。セフィロスの手は中途半端なところで止まったまま、何だか空しい風が吹いている。

―――何故にこんな事を?

「はあ…意味が分からん」

セフィロスは溜息をついてそう言うと、仕方なさそうに腰に両手を当てた。

普通こういう遊びというのは、大人になったらやらないものじゃないだろうか。それとも、まさかそれは思い違いというものだろうか。どちらにしても、セフィロスにとってはかなりの確率で気の進まないことである。しかも何故いきなり自分の方が鬼なんだか、それもいまいち納得いかない。

もしかしてこれが先ほどクラウドの言っていた「思い出を作る」ということなのだろうか。だとしたら付き合わないわけにもいかないかとも思うが…しかし。

「神羅内がどれだけ広いと思ってるんだ…」

はっきり言えば、神羅内はかなり広い。そこを全て調べろというのだろうから、これはかなり疲れる遊びでもある。

勝手に自分を鬼に仕立て上げたクラウドに、セフィロスはぶつぶつと文句を言いつつ、それでも何とか歩き始めた。

因みに10は数えなかったが、クラウドが去ってからゆうに10秒以上経っていることは確かである。

こうして、良く分からない鬼ごっこなるものが始まったのだった。

 

 

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