Seventh bridge -すてられたものがたり-(4)【ルドレノ】

*Seventh bridge

Seventh bridge -すてられたものがたり-

「なんでだ…なんで、助ける」

「だから、これが俺の“信念ある行動”ってやつだからだよ」

「俺を助けたら、俺はまた脱走する…復讐する…それで良いのか」

良いんだよ、それで。

「おまえはどうなる……」

「なに、心配してくれんの。クビだよクビ」

俺は舌を出してクビの辺りで手をスライドさせる。

バレたらタダじゃいられないだろう、そりゃ分かってるさ。管理局だけじゃなく社会的な問題だ。

でも本当は今まで平然としていられた方がどうかしてたんだろう。今はそう分かる。

「なあ、ビックバン起こしてくれよ。俺、見たいんだ」

「復讐を……?」

ご名答。それだよそれ。

俺はその復讐が滞りなく終わることを望んでるんだ。

おかしいか?

俺は数年前、俺専用の肩書きを手に入れるくらいに貢献した。それは他でもなくコイツの脱走を止めるって行動だった。つまり今の俺が言ってることと、過去の俺がやったことは、まるで逆だって話だ。

だけど俺は今、コイツの復讐が滞りなく終わることを望んでる。そう、今の俺には無い信念って奴が、ここにはあるからだ。

「レノ……礼を言う」

「そんなの要らないって」

俺はにやりと笑って、ガチャリと鍵を開けた。

それは、俺自身への解放みたいな気がした。




俺は姿をくらます。ゆっくり笑って。



通りに面した店の中にあるテレビのブラウン管からは、けたたましいアナウンサーの声が響いてた。

『プリズン脱走です!』

『巨体の男を筆頭に数十人が脱走を図った模様。脱獄囚はプリズン管理局の職員等を手に掛け、町を横行している模様です』

『同時に行方不明になったプリズン管理局本部勤務の職員を捜索中。この職員は今回の脱走に加担した模様です』

『脱獄囚リーダーは、過去この職員と接触があり…』

どうでも良いだろ、そんなの。

誰かさんが生きてく上では何ら関係なんか無い。

だけど俺たちにとってそれは、生きてく上ですごく重要なんだ。

「この髪の色、結構気に入ってたんだけどなあ」

残念。

俺は髪を黒く染める。

真っ赤に燃えた髪の色は、今や誰の色にも染まらない黒。

ついでに髪まで切ったら、まるで俺じゃないみたいだった。

頬に入れた気合いもかき消して、俺はなんにもない俺になる。

俺よ、サヨウナラ。

最後のお前はカッコよかったぜ。

なあ?何もないことが悲しいか?

それは今までの俺が消えたことなのか?

いいや、違うだろ。違うんだ。

俺はどこにでもいける。

空の広さも分かる、違う服も着れる、自由を手に入れたんだ。

保証のない、とても不安定な自由を。



そいつは膨張剤と俗に呼ばれる薬を投与された。

体がぶくぶく膨れ上がって気味悪いほどの巨体になって、やがては細胞がはち切れて爆死する。それが膨張剤の恐怖だった。

元々はタチの悪い害虫が土地を荒らすからと言う理由で開発されたらしいその薬は、誰かのほんの些細な一言で囚人に投与されることになった。

人間に使うなんてダメだと反対した奴もいた。

けど、そういう良識のある奴は大概優しい奴で、優しい奴っていうのは傲慢ちきな奴らには勝てないんだと世の中の相場は決まってた。傲慢ちきな奴らの作り上げた理想郷は、歪んだ格差を生んでいく。それでも奴らの言い分はこうだ。

「囚人なんだから社会のゴミだよ。ゴミはそれ相応に処理しなけりゃねえ」

ゴミはどっちだ?

お前らみたいに人を不様に笑ってる奴らのほうがよっぽどゴミじゃないかよ。

そう思ったけど、俺がそれらの事実を知ったのは膨張剤が投与された後だった。

そうだ、いつも肝心なことは上の上で踏ん反り返ってる奴らが決めちまう。

そんで、俺たち下々の者は王様の言いなり。

なのに、いつのまにか同じ加害者の勲章を与えられる。

あいつの信念が、せめてそれと同じくらい膨張してくれたらと思うしか、俺には許されなかった。

『処理は、支払いが不可能だったことによる医療制度への身勝手な反発ということで…』

『全く、プリズン管理局と我々が裏で繋がってることも知らずにご苦労なことだねえ。ふん、まあ彼らもまた腐った目の持ち主というわけだ。腐った目など要らん。そう思わんかね?』

『腐った目…でございますか?良くは存じませんが…左様でございましょう』

『しかしまあ、確かに低所得と特定の者には厳しい制度だからなあ』

『ですね』

『“医者は管理制度下の者以外には保証をするな!”、あれは名言だったなあ』

『……はい、まあ』

俺が事実を知った後、ある場所で聞き知ったのはそんな事実だった。

医者にかかることが無かった俺には、今まで分からなかった。

神羅時代は神羅が面倒見てくれてたから知らなかった。

神羅崩壊後、科学部門から派生して医療業務を受け継いだこの医療団体は、ある時期から大幅な人手不足に悩まされることになったらしい。神羅という機械社会の先導者がいなくなり、それでも成り立ってしまった機械社会は驀進を余儀なくされた。だから、教えてくれるリーダーを失ったまま、世の中は手探りのまま新しい機械社会に溶け込まなきゃならなくなった。

慣れないヤツが、慣れない機械仕事をする。

それでも人手が足りなくて、どう考えても厳しいだろうっていう無知な奴が機械を操る。

緩やかな世の中を生きてきた人にとって、血も涙もない機械社会はダークホースだった。無理に連れてこられた民間の人は慣れない仕事で怪我や病気になり、患者は増え、やがて人手不足の医療団体はパンクした。

人を殺すことは犯罪だ。神羅時代とは違う。

それは裁かれる犯罪だ。

勿論、医者が人を殺すことも犯罪だ。

医者は、パンクした状況をどうにかしたかったけど、人が生きている限りは出来なかった。行き詰まった医者にとっては、生きている患者こそが犯罪みたいなものだったんだ。

―――――――だから。

『制限したら宜しいんですよ』

『制限?』

『医療に制限を設ければ、おのずとあぶれる人間がでてきましょう』

『しかし君、それはその、暴動が起きんかね』

『それは勿論起きましょうとも。しかし暴動さえ起きればこちらのものです。法的に捌ける』

『法的に……』

『そう、そして法的に殺すことも可能になるのですよ』

“囚人にしてしまえば、殺せるんです。大義名分の上に、好きなだけ”

プリズンにぶちこんで、こっちに不利になった時には進んで命を奪う。

これが奴らの狙い。

馬鹿馬鹿しいほど人をナメてやがる。

でもそれは罷り通って、とうとう悲劇を呼んだ。しかも、科学研究の劇薬の実験台にまでなった。

『膨張剤を投与しましょう。なに、実験ですよ。それにヤツは囚人ですから、死んだとしても何ら問題ない。一石二鳥ってやつです』

暴動の首謀者は、プリズンにぶちこまれ、膨張剤を投与された。膨張していく体。見ていられるはずがない。

最初、何故あいつがそんなに膨張していくのか分からなかった。上の奴らの説明は曖昧だったし俺は無知だったから安易にそれを信じてたんだ。

「膨張する病気なんだよ。ところが彼は金がなくて治療ができなかった。そのための暴動さ」

だけどそれは違ってて、奴はただ膨張させられてただけだったんだ。

こんなバカな話ってあるか?こんなバカな話って。

俺は真実を知って、それで決めたんだ。こいつを解放しようって。

許されないことが罷り通る世の中なんて嫌だから、それに鉄槌食らわすことだって大切だから、それが出来る奴だって分かってたから、だから俺は。

それが立場上許されないことだと知りながら、それを選んだんだ―――――――。



DATE:02/15

FROM:レノ

TITLE:無題

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喜べ相棒。

俺、やっと解放された。

 – – – – – – – – – END – – – – – – – – –

    

DATE:02/15

FROM:ルード

TITLE:RE:

– – – – – – – – – – – – – – – – – – – – –

どういう意味だ?

おい、返信しろ。

 – – – – – – – – – END – – – – – – – – –

  

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