蜘蛛の涙(1)【セフィクラ】

セフィクラ

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■SERIOUS●SHORT

運命を、信じるか?いつまで一緒にいられるのだろうか…。

蜘蛛の涙:セフィロス×クラウド

 

もし運命というものが本当に存在するなら、この輝きの行く末もまた、決まっているのだろうか。

出逢った時から―――別れなど覚悟している。
離れたくないと思う心のどこかで、多分いつもそれを感じているのだ。

それでもまるでそれに抵抗するかのように言葉を交わす。数々の言葉を交わし、お互いを知らせ、そして最後に―――――。

”ずっと共にいよう”……そう囁く。

それが可能かどうか、その答えを心のどこかでは知っているはずなのに。

 

 

 

「ねえ、ずっと一緒にいようね」

それはもはや、口癖だった。
”ずっと”を実現するのはとても難しいが、言葉として用いるにはあまりにも簡単である。その上とても感情を含むので、とても便利だった。

「ああ」

この切りかえしも、もはや口癖。
本当にそう思っているか否かの問題ではなく、ただ気持ちに応えるための言葉。

「でもさ、俺にはちょっと想像つかないな」

そんな言葉を言っておいて、クラウドはちょっと可笑しそうに笑った。 

昼下がりの喫茶店。涼しげな空気が流れる店内。
本当は外出などできないのに、小用だと言って外に出るセフィロスにくっ付いていくと、こういう事も可能になる。

2人の会話はいつも他愛ないものだったが、少しでも未来の話を含むと、大概今のような会話が発生する。

クラウドは珈琲カップの中の揺らめきを見つめながら、先ほどの自分の言葉の続きを嬉しそうに口にした。

「セフィロスがおじさんになってくのって何か想像できない感じ。その内、おじいちゃんになったりするのかな?…変なの」

「ああ…そういう事か」

セフィロスは苦笑するようにそう切り返す。

「俺にも想像つかん」

「だよね」

「だが、お前の未来は少し想像がつくな」

ふっと笑ってそう言ったセフィロスに、クラウドは驚いたような顔を見せる。その顔が可笑しくて、セフィロスは更なる笑いを必死でかみ殺した。

「何だよ、笑うことないだろ?」

「いや、すまん。つい」

少し拗ねたようにするクラウドは、それでも直ぐに表情を戻すと、今度は気になって仕方ないというふうに身を乗り出す。

「俺の未来ってどんなだって思う?想像できるんだろ?」

やっぱり一緒にいるのかな?
クラウドは嬉しそうにそんな事を口にした。
その言葉を聞いたセフィロスは、真顔に戻って目の前のクラウドを見つめる。

この先、自分たちのあいだにどんな状況が訪れるとしても、絶対に不可能な事がある、と思う。

それは…“共にいること”。

勿論、生活上でそれが不可能なわけではないし、そうするのが悪いとも思わない。ただ、セフィロスがそれを実現するのは無理なのである。

ずっと側にいたい―――そう思う裏で、セフィロスの心は違うものも願っていた。

お前が幸せならそれで良い…そんな奇麗事を言うつもりは無いが、できればクラウドには真っ当な道を歩んで欲しい。此処でいう真っ当とは、別に保証付きエリートコースなどではない。

ただ単に、遠い未来、クラウドが独りきりになってしまわぬように、そう願うだけのことである。そう…ただそれだけのことだ。

「さあ…どうだろうな」

結局クラウドの質問をはぐらかしたセフィロスは、そのままその話題を打ち切るように立ち上がった。クラウドはそれが不満らしく、ふくれっ面で食い下がる。

「何だよ、教えてくれないのか?」

「良いだろう、別に」

「ちぇっ」

会話の続行を諦めたクラウドは、セフィロスに続いて自分も立ち上がった。
そうして未来の話は途切れたのだった。

 

 

 

お前が孤独な未来を送らなければ、それで良い。
自分がその隣に在り続けることはできないから。

そう思っているのに、それを口に出せなかったのは何故だったろうか?
それは多分―――本当は側に在りたいと思っていたから。

未来、クラウドが孤独にならぬように、
その側に在るのが自分であれば良いと……そう、思っている。
それは自分の願い。

けれどクラウドを想う気持ちは、
その側に在るのがどうか自分以外の人間であれと望んでいた。

 

 

 

重役会議の席。
昨今のミッション状況の説明をしろと言われ、セフィロスはその場に同席していた。

重役会議とはいっても、普段のそれとは違い、治安維持部門単独の会議である。昨今の治安体制やら何やらを話し合い、その結果はさらに上の重役会議に提出され、社長、副社長以下、各統括の間で吟味される。

だから、このような席は大概気が重い。
更にはもっと気の重いことを押し付けられる。
例えばそれは、会議後のちょっとした無駄話の間に。

「セフィロス。まさかお前、付属品など作っていないだろうな?」

これはもうありきたりな無駄話の一つで、もう何度も聞いてきた言葉である。
付属品というのは、いわゆる恋人のことだ。

「…俗な話をこの席でするつもりか」

呆れ果てた顔でそう言うと、ハイデッカーは特有のガハハ笑いを飛ばした。

「俗?俗といえば俗だな。しかしお前の力がそういう付属品のせいで落ちるのはどうかと思うからな、これはいわば親切だ。心配して言ってやってるんだ」

「いらぬ心配だ」

即座にそう答えたのに対し、ハイデッカーはつまらなさそうに顔をしかめる。

「お前は神羅の為に戦うんだ。そして俺の為にな。他の奴の名の下に動くことは許されん」

「……」

セフィロスは無言だったが、心中では、お前の無能さをそれほど暴露したいのか、と毒づいた。バカバカしすぎて苦笑する気すら失ってしまう。

「言っておくが、これは社長も然りだぞ」

「……」

二言目には権力の誇示をする上司―――呆れるしかない。

しかし、ハイデッカーの言ったそれは確かに事実でもあった。なぜなら、そういうふうにできている。セフィロスはそういうふうに位置づけされてきたのだ。

セフィロスは物心ついた時からこの会社の一員だった。その時点で、セフィロスは最早”個人”ではなくなっていたのである。そんな閉塞感を抱いていたセフィロスをさらに追いつめたのは、あの戦争だった。

あの戦争さえ無ければ、この名が世界に轟くのも無かったろう。
しかし―――。

“戦争のニュースでセフィロスを知ったんだ。本当のセフィロスを”

「……」

クラウドは―――そう言っていた。
戦争で自分を知ったのだ、と。

確かにあの戦争での功績はメディアにより大きく取り上げられた。そしてそれが、多くの若者の憧れをセフィロスに集中させることになったのだ。

クラウドもその一人だと考えると、あの戦争がクラウドとの出逢いの契機ともいえるだろう。そう考えると、忌み嫌ったあの戦争を一概に否定すらできなくなってしまう。

「とにかく。お前には期待しているからな、セフィロス」

最後にそう捨て台詞を吐き、ガハハと笑ったハイデッカーを、セフィロスは何も言わず見つめていた。

あれが上司であるという事実と、それを囲うこの神羅。
――――全て、間違っている。そう思う。

セフィロスはそんな心の内を長年隠しながら神羅で過ごしてきたが、最近ではそれも馬鹿らしいという思いに変わっていた。ふと、クラウドの顔が浮かぶ。そして、先日の会話を反芻した。

“ずっと一緒にいよう”

ずっと一緒に――――この神羅にいながら?

期待という圧力をかけ、上司の意志でしか行動を許さないこの神羅にいながら、これからも一緒に?

――――――無理だ。

「……俺は、無理だ」

ボソリとそう呟くセフィロスの周りには、もう既に誰の姿も無かった。

 

 

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