Diary of CLOUD / 違和感
著しく弱る身体で訓練を受け続けていたクラウドは、その日とうとう倒れた。
それは訓練中の出来事で、周囲には勿論数多くの訓練生がおり、その全ての人間がその様子を窺っていた。
ああコレで―――もう神羅にはいられないかもしれない。
薄れ行く意識の中でクラウドはそう思っていた。
もう、あの人の身体には触れられない――――。
目が覚めると、そこは兵舎の医務室に常設されたベットの上だった。上体を起こしてみると頭がガンガンとする。
駄目だ、そう思いクラウドは再度ベットに横たわった。天井を見つめながら、ただこれからの自分の処置について考える。
基礎体力が衰え、その上、訓練で派手に倒れこんだ自分――――。
多分、神羅は判断を下す事だろう。使い物にならない、と。
確かに実践で倒れたりしたら、損害を被るのは神羅の方なのだ。だからそれは当然の処置だった。
でも―――――。
もしそうなるとしても、もう一度、もう一度だけあの人の近くに行きたい。その乱雑な手つきで、この壊れきった身体を支配して―――滑稽な声で鳴いて。
どうせならば、あの人に壊して欲しい。
この心も身体も、全て。
その思考は、尋常でない事は確かだった。しかしクラウドを支配する心は、そういった判断すらもう既に出来なくなっていたのである。
ただ、飼いならされた身体が、間違った心の作用をさせる。
この身体が―――あの人を知らなければ。知りさえしなければ、こんなふうにはならなかっただろう。
けれどそういう可能性すら、もうどうでも良い。
ただ、狂うくらいに支配して欲しい、と思う。
それだけだった。
ガラリと扉が開き、クラウドの思考は途切れた。その扉の向こうからは、見慣れすぎた銀髪が見え隠れしている。
壊しに来てくれたのか―――?
そう思うクラウドの近くにやってきたその人物は、とても綺麗で鋭い切れ長の目をしていた。
長い、スラリとした身体。だが、それはどこか違和感を伴っている。あれ程望んだ人が今此処にいるというのに、何故かクラウドはそれを感じていた。
その人は、ゆっくりとクラウドの額に手を添えると、こんな事を言う。それは優しい響きを持っていて、違和感を増幅させた。
「倒れたのか?―――無理はしない方が良い」
何を言っているのだろうかと、クラウドは耳を疑うしか出来なかった。
無理するな、などという言葉は、この人が吐いて良い言葉ではなかったし、それに何しろ似合わないではないか、と思う。
あなたはそんな人じゃないはずだ―――そう、憤りすら感じた。
冷笑して、見下して、下卑た言葉をあびせる―――。
それでこそ、正しい。
それなのに。
混乱したものの、取り敢えず口をついた言葉は普通の返答だった。
「はい…」
優しさを宿した瞳が、クラウドを見つめている。それは今まで一度として見た事の無いものだった。
どういう訳か―――酷い嫌悪と吐き気が、襲った。
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