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■POP●SHORT
五月病にかかったセフィ・クラ・ザク。ダルいが連発です。(笑)
五月の病:セフィロス×クラウド
「あー…ダルイ」
「いえでる~何もしてないのに、くったくた…」
―――――――五月。
これは、脅威の月であることをご存知だろうか。
そう、あの噂に名高い五月病とかいうヤツの月である。ソイツはこともあろうに、人々を連休という名の天国から引きずりおろす悪名高いヤツなのだ。嗚呼、何と恐ろしいことか。
そんな五月病は、サックリサクサクと神羅の中にもやってきた。
しかも、あの英雄セフィロスにもである。
そんなわけだからセフィロスは、三日前から「俺は任務なんかやらないからな」といかにも駄々っ子のようなことを言って一切の仕事をシャットアウトしていた。…最低である。
まあともかくそんな具合だったので外にも出たくないという塩梅だったのだが、残念ながら向こうの方からやってこられると外に出なくても人と会うハメになる。
…というのが今この状況である。
「…おい、お前ら。何で俺の部屋にいるんだ」
セフィロスは、引き篭もり始めた三日前から何故だか自分の部屋の居候だか座敷童子だか置物だか知らないが、ともかくそんな調子でデンと構えているソイツラを見ながら、いかにも迷惑そうにそう言い放った。
その居候だか座敷童子だか置物だか分からない物体の名は、クラウドとザックスという。
クラウドは魂の抜けたような顔をしながらこんなことを言った。
「だってダルイしさ…でもセフィロスの側にはいたいじゃん?ってことは此処が一番良いかなって思って」
クラウドはでっかいリュックサックに荷物をわんさか入れて此処にやってきていて、まるで本当の居候のようになっていた。というかそのリュックが未だに開けられていないことはセフィロスの中で非常に謎だった。その中身は何なんだ、と問い詰めたい。
で、ザックスはといえば。
「固いこと言うなって。だって此処にいると漏れなく口実付きで休めるしさ~」
ザックスは、セフィロスの調子を見てくるとか何とか言っては此処にやってきて、そのくせ此処は快適空間だなどと絶賛しつつ昼寝を嗜んでいた。羨ましい限りである。
そんな二人を見ながら、セフィロスは溜息を吐くしかなかった。
ダルくて何もやる気がしなくてできれば独りで寂しく酒などチビチビやるのが一番しっくりくるというこの時に、何故にこんな荷物を見て溜息を吐かねばならんのか。
そんなわけでセフィロスは、ダルくて何もヤル気になどならなかったものの、二人を追い出す作戦を考えた。
もうこれは何が何でも追い出して、独り寂しく酒をチビチビやってやる―――――!
そんな素敵な意気込みがセフィロスを俄かヒートアップさせたのだ。
ヒートアップしたセフィロスが編み出した作戦は、思考回路を最高速でめぐり、更にはセフィロスの目をカッと開かせる。その眼力たるや恐ろしゅうて此処には書けそうもないが、ともかく二人がサクッと無視するくらいには凄かった。そう、凄かったのだ。
で。
「良し、ザックス。腹も減ったことだし、お前は食料を調達してこい」
「は?何で俺よ?」
「何でも何もない。今、神がやってきて俺に告げたのだ。ザックスに食料を買いにいかせると漏れなく美味い物が食えるはずだ、と。きっとどこかで特売をやっているのだ。お前はそれを誰にも負けないように奪取せねばならん」
「はあ…特売ですか」
何故に?、そう思ったが考えるのも億劫だったザックスは、まあ腹も減ったことだしどうせセフィロスの金だし(多分)と思いながらムックリと起き上がった。
髪の一部が跳ね上がっていたが誰もそれを指摘してくれなかったので、悲しいかなザックスはそのままで特売を奪取することになるようである。
訳も分からないままに300ギルを握らされたザックスは、ふらふらしながらもセフィロス宅を後にした。300ギルでは一人分しか買えないという事実はさっぱり理解していないらしい…恐るべし、五月病。
こうしてザックスを追い出すことに成功したセフィロスは、後はクラウドだけだと思い顎をサスサスと摩った。
ザックスが特売で「お買い得!」とか「目玉商品!」とか何とか書かれた食料を奪取し此処に戻ってくるまで――――おおよそ51分と予測してみる。
これは少なめに見積もっているつもりだが、それというのはザックスならサクッとそれをやりかねないという計算あってのことだった。
セフィロス宅近くにはそのような場所は無いから普通に行けば30分はかかる。そして特売を奪取するのに5分。で、また帰ってくるのに30分だから、30+5+30で通常65分である。いや、会計時間を考えると、並ぶ時間5分の会計時間2分の袋詰めが1分で、73分である。
しかしそもそもどこに買いにいくかも分からないし、ザックスの場合もしかしたら通常奪取5分のところ1分とタイムを縮めるかもしれない。
その上ソルジャーということを考えると一歩がデカいかもしれないから通常30分のところ23分でついてしまうかもしれない。
となると――――…まあどうでも良いが、ともかく早くクラウドも外に放り出さねばならないのだ。
「クラウド、お前は酒を買って来い」
「え?酒?」
何で、などと聞いてくるクラウドに、セフィロスは包み隠さずにこう言った。まるで包み焼きハンバーグを開けた瞬間くらいの勢いで。
「俺が飲みたいからだ。だから早く行くように」
しかしそんな理由にすぐさま「はい」なんて言う輩がいようか。否、いまい。
「え~!?セフィロスが飲みたいからって、そんなのズルいよ!」
そんなわけだからクラウドはすっかりご機嫌ナナメでそう抗議した。これは実に尤もな話である。
がしかしセフィロスは、クラウドが自分にすっかり惚れていることを知っていたのでそれを逆手に取るようにこんな説明をし始めた。
「何を言うか。酒を買ってきて飲めば、もれなく酔えるんだぞ。その勢いでベットにもつれ込んだら大層面白いに違いない――――と神は俺に告げたのだ。そんなわけだから、これはお前のためでもあるのだ。こんなダルい日にはホットな夜を過ごさねばならん。その為の第一歩だ」
「ああ、そうかあ…」
何故だか納得したクラウドは、じゃあ行こうかな、などと言ってムックリと立ち上がる。…ちょっと単純である。
がしかし、ザックスと違ったのは、ここでふとクラウドが考え込んだことだった。
クラウドは納得してみたものの、でもなあ…とか何とか言うと、腕など組んで口をへの字にする。
そんな調子だったので、早いところクラウドを追放せねばならなかったセフィロスとしては、少しばかりイライラが募る。ただでさえダルイのにそれにプラスしてイライラときたらこれはもう最悪である。
思わず催促するように、どうした、早く行け、などと言うと、クラウドはセフィロスの方を見てうーん、と唸った。それからこんなことを言い出す。
「でもだよ、セフィロス。酔ってもダルイことはダルイんだよ?ってことは酔うだけ勿体無くない?」
「勿体ないだと!一体どこが勿体無いのだ!」
独り寂しくチビチビやりたいのに!、そう思ったセフィロスは思わず本音でもってそう叫んだ。
因みにここで注意しておきたいのは、こんなダルイ時でなければ英雄とてクラウドには少しばかり優しいということである。まるでウソくさい話だが、そこそこウソくさいもののそれほどウソくさくもない。
ともかくクラウドは、セフィロスのそんな本音などサクッと無視してスバリ言いのけた。
「だって、酔ってもダルかったら絶対楽しいことにならないじゃん。それに酔ったら眠くなっちゃうから、そうなるくらいなら飲まない方が良いと思うんだけど」
「飲まない方が良いなんてことは無い!お前は神を愚弄するのか!!」
「そういう訳じゃないけどさ…だって、セフィロス」
そう言ってクラウドはぺたぺたとセフィロスの方に歩み寄ると、唐突にセフィロスに顔を近づけた。
そして、こともあろうにキスなどをする。それは唇を重ねるだけの軽いキスである。
「…どう?」
「どうとは、どういう意味だ?」
キスが離れてからそんな事を聞いてくるクラウドに、セフィロスはさっぱり意味不明だというふうにそう聞いた。するとクラウドは、はあ、などと溜息を吐きながらも悲しそうに呟く。
「ホラ、やっぱダルイから何も感じないんだよ」
「は?」
「普通キスなんかしたら、うわ~とか、ぎゃ~とか、ドキドキとか、ズキュンとか、グオ~ンとかするのにさ…」
最後のグオ~ンというのはいささか不明である。
「それなのに何も感じないんだよ。これも全部ダルイからいけないんだ、ダルくなんてなかったらもっと楽しいのに…っ」
何だか知らないが泣きそうな顔になったクラウドは、もうダルイのなんて嫌だと喚き始めた。
だからセフィロスは、自分もダルくて仕方無いというのに、というかそのためにクラウドを追い出そうとしていたのに、何故だか全く逆にクラウドを慰めるハメになってしまった。くどいようだが自分もダルイのに、である。
「クラウド、落ち着け。まあそれは分かる、痛いくらい分かるぞ。ダルくなければ万事上手くいくのだ、ところがダルイから何もかもが上手くいかん」
クラウドを慰めていること自体“上手くいかん”の範疇であることは言うまでもない。
「しかしだ、それはもう仕方無いことだと諦めるほかあるまい。この際それは受け入れるとして、ここは一つ独り寂しく過ごすというのはどうだ?」
「独り寂しくなんてもっとダルくなっちゃうよ。それよりセフィロス、もう一度試しにキスしてみてよ」
セフィロスの飽くなき作戦は、クラウドのダルさ故に敗れ去った。その上クラウドは、更にダルさを増殖させるようにそんな事を言いセフィロスに渋い顔をさせる。
仕方無い、まああと一回ぐらいは付き合ってやるか……
そう思いセフィロスは、取りあえずキスしてみた。今度は少し上級者向けに、舌を絡ませるふうに。
しかしそれも終わってしまうと何ということもなく、クラウドはその事態にますます悲しくなったようだった。
「何も思わないよ…もう駄目だよ、セフィロス…全部、全部ダルイからいけないんだ!こんなの嫌だよ~!」
「クラウド、落ち着け。俺もダルイのは嫌だ」
「じゃあセフィロス。もうちょっと何か試してみてよ。もっと何かしたら、もしかしたら少しは何か感じるかもしれないじゃん」
「…まだやるのか」
ふう、そう息をつきながらもセフィロスは、取りあえずダルさの中でキスをもう一度した。今度はちょっと長めである。
しかしそれをしてみたところで何だかどうも面白くないらしいクラウドは、例によって「何だかこれも駄目みたい」などといって、じゃあもう少し、と更なる行為を要求した。
そんな調子だから、その内、試しに服を脱いでみたりする。
それでもってそれなりの事をしてみたのだが、これもどうやらクラウドに何も感じさせないらしい。
だから今度は横になってそれなりの体勢を作ってからそうしてみる。
が、何という事かこれでもクラウドは俄然ダルイままで何も感じないらしい。
「おかしいな…なんで何も感じないんだろう…」
「ダルイからだろう…」
「じゃあ、試しに…」
「どうだ…」
「いや、何だかやっぱ駄目…」
「駄目か…」
「じゃあちょっとこんなふうにしてみたら…」
――――そんな調子で、あれよという間にベットの上状態になる。
とはいえ、ダルくていまいち何も感じないものだから、二人としてはムードもへったくれもない。正に「試しに」やってみているだけなのだ。
しかもお互いダルイ中で首など傾げながらやっているものだから、さっぱりテンポもおかしい。
そんなふうに試しに何かをやってみる時間が続いていたものだが、あまりにダルくて二人は時間の感覚を失っていた。それでも先程ザックスを追放してから然程時間は経っていないだろうという頃である。
…それなのに。
ガチャ、とドアが開く音がした。
そしてその後に、いかにもダルそうな声が響いてくる。
「おい~セフィロス!いくらダルイからって金額間違えるなよ。300ギルしかないじゃんかよ~!買えないって!」
……それは、「お買い得!」とか「目玉商品!」とか何とか書かれた特売の食料を買わずして、少なめ見積もり51分のところ通常30分かかる行きの時間の内15分の時点で手持ち金が300ギルだと気付き往復30分で帰ってきたザックスの声だった。
がしかし、そんなダルいザックスの目に映ったものとは…。
「あ」
「あ」
「あ」
――――――別の意味でダルさを増幅させる場面であった…。
ザックスは本当のところ怒りたかったが、ダルかったのでそれを諦めた。
クラウドは本当のところ言い訳をしたかったが、ダルかったのでそれを諦めた。
セフィロスは本当のところ独り寂しくチビチビ酒をやりたかったが、ダルすぎたのでそれを諦めた。
END