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夏らしく花火ネタです!ところがどっこい意外と甘くないかも?
クリスマスツリー:セフィロス×クラウド
どおおおおん、と、鳴る音。
空に咲く大輪はとても綺麗で人々の目を奪う。
誰しもが空を見上げ、一心にその大きな花を見つめた。
しかしそれはすぐに消えてなくなる真夏の夜の儚き花―――。
花火が綺麗なのは、すぐに消えてしまうから?
人が人を愛するのは、人がいつかは死んでしまうから?
限りあるから、
だから人は、それを愛おしく感じるのだろうか―――――。
「花火、誘ってもらえるとは思ってなかったから嬉しかったよ」
どこかの国の浴衣だとかいう布切れを巻いただけの格好をしたクラウドが、俺に向かってそんなことを言った。
季節は、夏。
この季節がやってくると、神羅は脳みそが湯だったように唐突と催し物を乱発する。
特設の巨大ビアガーデンならばまだ有難いが、女子供が喜びそうな花火や露天などもやりだすのだからまいったものである。
神羅の上の連中は、これを「地域活性化」だとか呼んでいるらしい。
俺としては不満然りだが、しかし俺の感想に反して人の出は良い。
ミッドガルの人々はもしかすればこういった気軽に楽しめるものに飢えているのかもしれない。まあ、確かに誰かが楽しんでいる顔を見るというのは悪いものではないと思う。
心から楽しんでいるその笑顔は、何にも代えがたい。
そういうものを提供しているのが神羅だとするならば、たといそれが高感度のためのわざとらしい所作であろうとも、結果的には良かったのではないかと思ってしまうから不思議である。
「ねえ、セフィロス。あっちの方がよく見えるよ。あっち行こうよ!」
俺はクラウドに引っ張られて、ぐいぐいと人のいない寂しい方向へと連れ去られていった。
人の群れを煩わしいと感じる俺にとっては実に好都合だったが、それにしても穴場スポットというふうでもない。単に寂しい場所だ。
それでもクラウドはそんな場所にはしゃぎ、ねえねえ、ここがよく見えるよ、などと言ってくる。
全く、どこまで花火が第一なんだと呆れたくもなる。
しかし、クラウドの言う場所までたどり着いてみると、そこはたしかに花火がよく見えた。どおおおおん、という壮大な音と共に、この夜の為だけに詰められた火薬がぱあああっと散る。
その様子は言葉にするには難しい。
とても綺麗で、とても荘厳。
しかし一瞬にして消えてしまう様はあまりにも儚くて、俺はその火花が散りゆくたびに胸の奥がちりちりと痛む気がした。
花火などというものは、所詮、火薬が空中で爆発して火花が散る、というだけのものである。説明すればたったそれだけのものなのに、どうしてこの季節になると人々はこの火薬の花を見にやってくるのだろうか。
そこには、夢なんてない。
ただ、職人が詰めた火薬が破裂しただけのことで、それ以上の意味もそれ以下の意味もないのである。
それなのに人々は、そこに多大なる意味を見出しているようだった。
「クラウド、お前はどうして花火に夢中になるんだ?」
背伸びまでして花火に集中しているクラウドにそう問うと、クラウドはちょっと面喰ったように俺の顔を見る。そうして、まさにそのまま、どうしてそんなことを聞くのかと問うてくる。
「誘ってくれたのはセフィロスじゃん。だから俺嬉しくて。それだったらちゃんと見ようって、そう思ったんだ」
「俺が誘ったから、というわけか?」
「そうだよ。まあもともと花火は嫌いじゃないけどね。でも、セフィロスと一緒に見る花火だったら、ちゃんと見て、目に焼き付けておきたいなあって思ったんだ」
クラウドはそんなふうに回答すると、にっこりと笑った。
俺はそんなクラウドを見て、反論的な気持ちを消失した。
本来ならば、そんな道理は納得できないと思う。しかし今クラウドが、さも当然のようにそんな言葉を口にしたことは、俺にとって少なくとも悪い気持ちのするものではなかった。だからだろうか、こんな簡単に折れてしまうのは。
そんな事を思っていると、どおおおん、と音がして、空に大きな花が咲いた。
「うわあ、綺麗だね」
クラウドが感心してそんなふうに零す。
俺はその隣で、クラウドと同じようにその花を見て、儚いような嬉しいような、不可思議な気持ちに陥っていた。
あの花は数秒で消えてしまう儚い花。
しかしその幻の花を、こうして二人で見ている。
その事実はきっと、幻ではないのだ。
「……」
俺は、自分でも驚いたことに、無意識にクラウドの手をぎゅっと握っていた。
クラウドは相当それに驚いたらしく、次の花が空に咲く間もずっと俺の顔を見ていた。
がしかし、俺は夜空の花から目が離せないでいた。
しばらくして、クラウドがつぶやく。
「…ねえ、思い出は永遠になくなったりしないよ」
その言葉は、まるで俺の心を読んでいるようで、胸の奥がじわじわと焼けるように熱くなった。そんな気がする。
夜空には、大きな火薬の花。
それは一瞬にして消える幻の花。
だが、その花を見ている俺達のこの時間は――――そう、お前が言う通り、一生、消えは無いのだろう。
一瞬の幻に永遠を見る。
その儚さに愛を見る。
花火が綺麗なのは、すぐに消えてしまうから?
……ああ、きっとそうだろう。
人が人を愛するのは、人がいつかは死んでしまうから?
……ああ、きっとそうだろう。
限りあるから、
だから人は、それを愛おしく感じるのだ。
そしてその想いは、永遠という時間を生きるのだ。
END