Diary of CLOUD / キャット
感覚は既に無くなっていた。
体中が多くの傷に埋まっていく中で、クラウドは意識がまだある事が不思議だと思っていた。
周囲を囲むのは同じ訓練生達。勿論、見た事もない顔ばかりだった。だからこそ、自分がその面々に暴行を受ける理由が分からなかった。
が、それはすぐに明確になる。
「顔色窺ってポイント稼ぎか!ほんと、頭くんだよ。お前みたいな女々しい奴はよ!」
ゴン、と鋭い音の後に、クラウドの額から血が流れた。また別の手が髪を掴み、体ごと地面へと叩きつけられる。
「しかもお前、セフィロスのお気に入りらしいじゃんか」
「何の事…を…」
何とかして声を出そうと思うが、いまいち迫力も出ない。
「試験は厳しいもんなあ…そりゃ体売ってた方が早いよなあ!」
脇腹を足で思い切り蹴られ、口から血が溢れ出る。特有の味がクラウドの口中に広がり、それは地面へと流れ出した。
「このキャットが!」
途切れそうになる意識の中で、クラウドはその言葉を反芻した。
人間以下って事か―――そう思って、クラウドはおかしくなる。
そんな事は今更言われなくても分かっている。セフィロスや、その他のソルジャー達とのあの異様な性交渉の中で、人間的な意識を持てという方が難しい。
しかし何故、彼らが自分とセフィロスの関係を知っているのか分からなかった。
一体どこから情報が―――セフィロスが言う筈は無いだろう、それは確かだ。
「いっそこのまま殺しちゃう?」
下卑た笑いが響いた。
どういう訳かクラウドは、その言葉にだけは敏感に意識が働いた。
最早、体を動かせる状態では無かったが、しかし心中で反撃を繰り返す。
絶対、死ぬもんか―――!!
だが、起き上がる力も無いのでは、この状況からの脱却は無理に等しい。
「何だあ?抵抗する気かよ、こいつ?」
「良いよ、やっちまおう!」
ビュッ、と空を切る音が響く。
ああ―――もう死ぬのか、そう思った。
絶対、死にたくないと思うのに―――。
だが。
「お前ら、何してる!!」
どこか遠くから凛とした声が聞こえた。
誰かは分からない。
何せ、目が開けられない状態なのだ。
「やばい、いくぞっ!」
先ほどまで自分を散々ののしり、その上無数の傷まで付けた連中の、聞き慣れた声が焦りの色を見せる。やがて、足音がバタバタとして、彼らは去っていったようだった。
しかし、それでもあの訓練生たちは目的を果たしたといって良いだろう。
クラウドの意識は、今度こそ遠のいた―――。
自分を助けた人物が、誰であるかも知ること無く―――。
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